
やすだ・ゆうすけ。発達障害(ASD/ADHD)によるいじめ、転校、一家離散などを経て、不登校・偏差値30から学び直して20歳で国際基督教大学(ICU)入学。卒業後は新卒で総合商社へ入社するも、発達障害の特性も関連して、うつ病になり退職。その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。経歴や年齢を問わず、「もう一度勉強したい人」のために、完全個別指導を行う。また、不登校の子どものための家庭教師「キズキ家学」、発達障害やうつ病の方々のための「キズキビジネスカレッジ」も運営。
よくお聞きするそのような声にお応えして、本コラムでは、発達障害のお子さんの大学受験について、徹底解説します。
この記事を読んでわかること
この記事をご覧になることで、発達障害のお子さんの大学受験についてのお悩みが解決し、具体的な「次の一歩」が見えてくると思います。(参考:鈴木慶太『親子で理解する発達障害 進学・就労準備の進め方』、高橋知音『発達障害のある人の大学進学』)
目次
すでに発達障害についてご存知の方は、次章「発達障害の子どもが大学受験するときの7つの確認事項」まで進んでも大丈夫です。
2013年に刊行された、アメリカ精神医学会の定める診断基準『DSM-V』によると、主な発達障害として以下の3つを挙げることができます。
発達障害の特性は、発達障害ではない人にも見られるものがあるため、専門医でないと「発達障害かどうか」は判断が難しいです。
特性自体はあるものの、その特性が診断基準を満たすほど強くないことから、確定診断が下りずに困りごとを抱える「グレーゾーン」と呼ばれる人もいます。
お子さんが発達障害ではないかと思っているけれどまだ診断を受けていないなら、まずは専門医のもとで検査を受けることをオススメします。(参考:村上由香『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』)
発達障害は病気ではなく、あくまで「目立ちやすい特性がある」というだけです。発達障害のお子さんも、日常生活などにおける「困難」は、過ごし方の工夫などで対策できますので、ご安心ください。
ADHDは、正式名称を注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)という、発達障害の一種です。
ADHDの特性の程度や現れ方には個人差がありますが、大きく分けて「不注意」と「多動・衝動性」の2つの特性が見られます。
具体的な困難としては、以下が挙げられます。
不注意による困難
多動・衝動性による困難
ASD(Autism Spectrum Disorder、自閉症スペクトラム障害)とは、社会性・コミュニケーション・想像力の3つにおいて特性が目立つ発達障害です。
具体的には、以下のような特性・困難が目立ちやすいと言われています。
社会性の特性・困難
コミュニケーションの特性・困難
想像力の特性・困難
また、ASDには聴覚過敏などの「感覚過敏」が併存することが少なくありません。
LD(学習障害)とは、次の6つの能力の1つ以上に、習得や使用の困難がある発達障害です。
6つの能力
どれに困難を覚えるのかは人によって異なりますが、「特定の情報処理が難しい」という困難は共通しています。
例えば、読字障害の場合は「教科書の文章がうまく読めない」、書字障害の場合は「文字を書いたり覚えたりすることが苦手」です。
LDは、他の発達障害に比べると、初等教育が始まる段階で特性を自覚しているケースが少なくありません。
なお、「視覚障害があるから読むのが苦手」「聴覚障害があるから聞くのが苦手」などのケースは、LDには当てはまりません
例えば、次の章で解説する「特例申請」を行う場合は、受験の願書提出よりも前に申請を行う必要があります。また、入学後の支援体制などを調べるためには、支援が不要な場合よりも時間がかかります。情報収集や準備は、早めに行いましょう。
お子さんは「子ども」で「発達障害」だとしても、「一人の個人」でもあります。親御さんが「子どものために」といろいろ決めたくなる気持ちはよくわかりますが、お子さん本人の意思を尊重しましょう。
担任の先生、カウンセラー、支援機関など、支援者・支援機関などを上手に頼る・利用することで、これから紹介する確認事項について、「あなたのお子さん」のための具体的なアドバイスがもらえます。
これら3点に留意しながら、以下ご覧ください。
1点目は、お子さんに「興味・こだわりの強い分野があるか」です。
発達障害の特性によって、興味・こだわりが強い分野がある場合、その分野を専門的に学べる大学・学部・学科を目指すことで、受験勉強へのモチベーションが上がりやすくなります。進学後も、好きな勉強に打ち込めることで、発達障害に伴う多少の苦労はあっても、進級・卒業の意欲を維持しやすくなります。
反対に、「こだわり」のない分野に興味を持ちづらい人もいます。
その場合、親御さんが、お子さん本人に興味・こだわりのない分野の大学・学部・学科への受験を勧めても、モチベーションは維持しづらいということです。
また、調理や製菓のような分野に興味・こだわりがある場合には、大学ではなく専門学校を選んだ方がよい場合もあります。
親御さんに希望があるのはわかりますが、お子さんの特性を考慮して進路を判断することが大切です。
本人の大学受験の意思をきちんと確認しつつ、「興味・こだわりの強い分野があるか(何には興味を持てないか)」を重視するようにしましょう。
2点目は、「発達障害に伴って知的発達の遅れがある場合、志望校に支援体制があるか」です。
一般論としては、知的発達に遅れがあっても、ある大学の受験に合格する学力があるならば、その大学を卒業することは可能でしょう。
しかし、遅れの程度・内容によっては、履修申請などの諸々の手続きや、同輩と足並みを揃えるグループワークなどで、困難に直面することもあります。
多くの大学には、障害のある学生の履修相談や授業支援を行う「障害学生支援室」がありますので、支援員による「合理的配慮」を受けられます。ですが、充分な配慮・支援を受けられない学校もあります。その場合、手続きや情報収集を自分から積極的に行うことができなければ、必要な申請などの機会を逃すこともあります。
お子さんに知的発達の遅れが見られる場合は、大学受験(合格)が可能かどうかだけでなく、「進学後に学校生活を送れそうか」「志望校にしっかりした配慮・支援体制があるか」を確認するようにしましょう。
発達障害であることは、大学に伝える義務はありません。
その上で、「発達障害があることを大学に伝えるか」は、要確認事項です。
入試の際に特別な措置を受けたり、進学後に配慮・支援を受けたりしたい場合は、大学に、発達障害であることを知らせる必要があります。大学側でも、その子の発達障害の特性に合った対応ができるよう、準備する必要があるからです。申請にあたっては、ご家庭側にも手間が発生します。お子さんの発達障害の特性や程度を考慮し、必要に応じて詳しい人・機関にも相談して、告知すべきかどうかを検討しましょう。
私たちキズキ共育塾は、発達に特性のあるお子さんのための完全個別指導塾です。進路/勉強/受験/生活などについて、無料相談ができます。大学合格実績多数。お気軽にご連絡ください。
LINEで問い合わせ4点目は「進学後にどのような配慮を受けられるか」です。
先述した障害学生支援室のように、通常、大学では、発達障害の学生をサポートする専用窓口が設けられています(内容は大学ごとに異なります)。そこで支援員に相談すると、例えば期末試験を別室で受けたり、講義を理解しやすいよう特別に板書の写真撮影や動画記録の許可を得たりと、合理的配慮を受けることが可能です。
特に、LDの子どもは、情報の入出力の媒体を変える、電子機器などの道具を利用するなどで、学習に伴う困難がだいぶ緩和されます。
よって、こうした合理的配慮を受けられるかどうかで、勉強のしやすさが大きく変わるでしょう。
また、支援員だけでなく、同じような発達障害を抱える上級生が、「学生サポーター」として悩み相談に乗る場合もあります。
このように、発達障害の学生が通いやすいよう、大学によって様々な取り組みを行っています。
大学受験の前には詳しい人に相談したり、必ず調べたりするようにしましょう。
ちなみに、発達障害のある子どもの受け入れ状況や配慮などの情報を、大学ごとに収集して、書籍の形でまとめている団体などもあります。
気になる方はインターネットで検索してみてください。
5点目は「学校の制度や修学面の特徴から考えて、卒業できそうか」です。
前述の配慮・支援と合わせて、例えば次のような学校の制度を確認しておくことも大切です。
制度などの例
例えば、発達障害の特性によってグループワークが向いていなさそうな場合には、「同じようなことを学べるA大学とB大学」があるなら、講義形式の授業が多い方の大学を目指す、といったことが考えられます。
志望校が近くにある場合には、オープンキャンパスや学校見学会を通じて、大学側の取り組みや授業の実際面を確認することがオススメです。九州大学のように、発達障害のある高校生向けのオープンキャンパスを実施している大学もあります。直接学校に行けない場合でも、問い合わせをしたり資料を読んだりして、制度と修学面の両方の特徴を考慮し、卒業できそうかどうかを考えましょう。
6点目は、「大学卒業後の進路(主には就職のこと)をどうするか」です。
大学は、第一義的には「卒業後の就職のため」に通うものではありません。
また、「卒業後の進路」は、大学受験の時点で必ず考えておかなくてはいけないものでもありません。
ですが、特に発達障害の子どもは、卒業後の準備・情報収集に早めに取り組んだ方が、進路や就職先を具体的にイメージしやすくなるでしょう。
現時点で、お子さんに「どういった職種に就きたい」「大学で勉強することやこだわりを将来に活かしたい」という希望があるようでしたら、受験する大学・学部選びの一つの参考にしてみてください。
ちょっと極端な例かもしれませんが、「理工学にも文学にも興味がある。将来的には理工系の仕事に就きたい」のであれば、「文学部ではなく理工学部に進学する」というようなイメージです。
現時点で将来の希望があってもなくても、大学入学後には、「障害者就業・生活支援センター」などの公的機関に相談するのがよいでしょう。基本的には学生の段階から無料で相談・支援を利用することができます。
支援機関も上手に利用しながら、卒業後の進路について考えるよう、お子さんに伝えてみてください。
最後は「自宅から通学するか、一人暮らしか」です。
大学進学となると、今の居住地を離れて、一人暮らしをする必要がある人もいると思います。
発達障害の特性や程度によっては、一人暮らしをすることで生活が乱れたり、公共料金の支払いや手続きで苦労したりすることもあります。
志望校が実家から離れている場合には、一人暮らしできるかどうかを検討することも大切です。
「現時点では一人暮らしは難しそう」と思っても、志望校をあきらめる必要はありません。支援機関を利用して、自己管理の方法やセルフケアのコツを習得していけば、一人暮らしができる「能力」が次第に身についていきます(特性の程度次第によっては、進学が決まってからでも問題ありません)。
例えば、大学入学共通テスト(旧センター試験)では、「専門医による診断書」と「状況報告書」を提出することで、以下のような特別措置を受けることができます。(参考:大学入試センター『受験上の配慮案内』)
※チェック回答とは、一般の回答用紙(マークシート)にマークすることが困難とされる人を対象にした、選択肢の数字などが書かれた回答用紙にチェックをする回答方法です。
申請の時期は例年、出願前であれば8月~9月末、出願と同じタイミングであれば9月末~10月上旬にかけてです。
申請をご希望の方は、大学入試センターの担当窓口に、事前相談をするようにしましょう。
また、国公立大学の二次試験や私立大学の試験でも、同じような合理的配慮が行われています。
配慮の具体的な内容・申請方法・申請時期などは、大学によって異なります。志望校を決める段階で、候補となる学校にあらかじめ相談・確認を取るようにしましょう。また、基本的には「専門医による診断書」の提出を求められると思いますので、発達障害の検査を受けておらず、確定診断が下りていない場合は、まずは病院の受診をオススメします。
繰り返しにはなりますが、前提として、親御さんだけ、ご家族だけでお悩みを抱え込まず、適切に専門家を頼ることが大切であることは、意識しておきましょう。
1つ目は「担任の先生やカウンセラーとよく相談する」です。
お子さんの様子を身近で見てきた担任の先生であれば、込み入った相談に乗ることができます。
相談内容の例
また、スクールカウンセラーからは、発達障害に関する具体的な悩みの解決に向けたアドバイスを得られるはずです。
お子さんが受けられる公的支援や、お子さんに合った支援機関を紹介されることもあるでしょう。
いずれも学校教育・制度を知る専門家ですので、大学受験に関わらず、お子さんの学生生活や将来のことで困ったら、まずは担任の先生やカウンセラーに相談してみてください。
2つ目は「専門機関や学習塾に協力を求める」です。
それぞれが有する専門的な知見から、お子さんについてのアドバイスが受けられます。
学校以外にも相談先はたくさんありますので、あなたとお子さんが相談しやすい支援機関を探してみてください。
専門機関などの例
かかりつけの医師との情報共有・協力は、特に重要です。小さい頃から発達障害が明らかになっている場合、継続的にお子さんを診ている先生がいると心強いでしょう。かかりつけの医師は、専門知識を有しているだけでなく、成長の経過も知っている分、お子さんにふさわしい助言をくれるはずです。また、発達障害を専門に診ている医師にセカンドオピニオンを求めるのも一つの手段です。
発達障害の子どもの指導実績がある学習塾では、お子さんの特性に合わせた勉強法で学ぶことができます。また、志望校探しに関連して、各大学の発達障害への対応度合いに詳しいこともよくあります(私たちキズキ共育塾もその一つです)。
3つ目は「親の会で情報収集や意見交換をする」です。
発達障害には、その特性に応じて、保護者の組織である「親の会」がたくさんあります。
親の会に参加すれば、大学受験に際して同じような悩みを抱えている保護者に出会えるだけでなく、受験校の支援体制などについて、当事者視点で具体的な話を聞くこともできるでしょう。
興味のある方は、インターネットで「発達障害 親の会」と検索すれば、多くの団体が出てくると思います。
「JPALD(特定非営利活動法人 全国LD親の会)」では、東北や関東など、各地を6ブロックに分けて、保護者による情報交換会、勉強会、LDの子どもの友達作り、イベントなどを催しています。
なお、ここまでの①〜③は、続く④⑤の前提にもなるとお考えください。
4つ目は「特性に合わせて勉強に集中しやすい環境を整える」です。
発達障害の子どもの中には、塾などの大人数の教室で勉強するよりも、自分で調べながらマイペースに勉強した方がよいという子もいます。
例えば、発達障害に伴って聴覚過敏などの特性がある子どもが家で勉強するときは、ご家族はできるだけ静かにする、音声を遮断するイヤーマフを用意するなど、必要に応じて配慮するようにしましょう。近所で評判の「○○塾の受験対策コース」といったものも、一般的にはよくても、お子さんの特性に合わなければ、通っても受験勉強がはかどらず、自信喪失につながる場合があります。
発達障害の特性に合わせて、勉強に集中しやすい環境を作ることが、大学受験を成功させるための秘訣です。
最後は「メンタル面のケアを心掛ける」です。
発達障害の有無にかかわらず、大学受験にはストレスやプレッシャーが伴います。
特に発達障害の子どもは、勉強が思うように進まずにイライラしたり、成果が出ないことで自信を失ったりする機会が多くあります。そうした大学受験に伴う苦労や挫折は、自己肯定感の喪失につながり、ノイローゼやうつ病といった「二次障害」につながる可能性もあります。お子さんが勉強のしすぎで疲れきったり、気を張りすぎたりしていないかを注視して、必要に応じて休ませるなどのケアをすることが大切です。
一方、親御さん自身についても、お子さんを心配しすぎるあまり、自分を追い詰めていないか、ご自分の調子を確認するようにしてください。
親御さん自身ためでもありますし、気分の落ち込みや不調がお子さんにも影響して精神的な動揺を引き起こすのを避けるためでもあります。
ときには、お子さんと距離を取って一人で出掛けたり、リラックスする時間を多めに取ったりして、自分を気遣うことも忘れないようにしましょう。
私たちキズキ共育塾は、発達に特性のあるお子さんのための完全個別指導塾です。進路/勉強/受験/生活などについて、無料相談ができます。大学合格実績多数。お気軽にご連絡ください。
資料を無料ダウンロード繰り返しにはなりますが、発達障害の子の大学受験は、早めの情報収集と準備が重要です。
必要に応じて、公的機関の支援員や学習塾の先生など、実績の豊富な専門家と相談しながら、着実に準備を進めるようにしましょう。
その上で、親御さんの方でも細やかなサポートを実践できれば、お子さんの特性にあった進学先を見つけられる可能性が高くなります。
発達障害でも、大学受験・合格・進学はもちろん可能です。ぜひ情報収集をしてみてください。
私たちキズキ共育塾には、発達障害(グレーゾーン)の生徒さんが多く在籍しています。大学合格の実績も多数。
ご相談は無料ですので、少しでも気になるようでしたら、お気軽にご連絡ください。
経験豊富な講師とスタッフが、お子さん個人の事情に応じて、勉強とメンタルをサポートします。
/Q&Aよくある質問
発達障害の子について、大学受験の前にしておいた方がよいことはありますか?
発達障害の子の大学受験で、親ができることを知りたいです。