「学校休んだほうがいいよチェックリスト」のご紹介〜作成者インタビュー付き〜

2023年8月23日、不登校支援を行う3つの団体(キズキ不登校新聞Branch)と、精神科医の松本俊彦氏が、共同で「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成・公開しました。LINEにて無料で利用可能です。

このリストを利用する対象は、「学校に行きたがらない子ども、学校が苦手な子ども、不登校子ども、その他気になる様子がある子どもがいる、保護者または教員(子ども本人以外の人)」です。

このリストを利用することで、お子さんが学校を休んだほうがよいのか(休ませるべきなのか)どうかの目安がわかります。その結果、お子さんを追い詰めず、うつ病や自殺のリスクを減らすこともできます。

「学校休んだほうがいいよチェックリスト」とは

学校休んだほうがいいよチェックリスト」は、学校を休みたいと言っている子どもを本当に休ませていいのか、心配になっている保護者の方に向けて作成したものです(教員の方も利用できます)。

具体的なチェック項目としては、次のようなものがあります。

  • 一週間以上、欠席が続いている
  • 学校でトラブルにあっている
  • すぐにイライラするようだ
  • 過度に甘えたり、わがままになることがある

このような20個の質問項目に「Yes/No」で答えることで、お子さんの状況に応じた回答を得られます。

保護者さまの、「子どもが学校に行きたくないと言っているけどどうしよう…」という悩みを解消できるはずです。

また、チェックリストの作成には、精神科医と不登校支援を行う団体が携わっているため、お子さんの状況を客観的に判断するための材料となります。

「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成した理由

学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成した理由などを、簡潔にお伝えします(詳細は次章で改めてお伝えします)。

  • チェックリストによって適切な休みを示唆するのが狙い
  • 不登校になることよりも深刻な問題は、過剰適応が続くこと
  • 過剰適応とは、学校を休むべき時期に無理な登校を続けさせる状態
  • 過剰適応が続くと、うつ病や自殺リスクが高まる
  • リスクを知らない親や教員が、不登校になる恐れから過剰適応を誘発
  • 親も教員も、休む基準がわかれば子どもを追い詰めない
  • チェックリストは親向けで、事実ベースで判断するためブレが少ない
  • LINEで利用できるため、気になったときにいつでもチェック可能

「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成した理由〜作成者・石井しこうから〜

前章の内容について、リスト作成者の一人である、不登校新聞社代表・石井しこうから、より詳しく説明します。

不登校とは、いじめや教員との関係などさまざまな理由で、子どもが心理的に教室内の居場所を失うことです。

一方で、不登校によって心配される学力、協調性、社会性などは、塾やフリースクールでも代替可能です。文科省も学習指導要領などで「不登校というだけで問題行動とみてはならない」と通知しています。

不登校になることよりも深刻な問題は「過剰適応」です。休みが必要なのにも関わらず、親や教員が無理に子どもを登校させることです。こうした登校圧力により「過剰適応」が引き起こされます。

過剰適応を起こした子どもは「自分を殺しながら学校へ通っていた」と語るなど、自分を強く抑え込もうとします。その結果、心理的に無理がたたり、うつ病や自殺未遂などのリスクへと発展します。

過剰適応になる前に「もっと早く休ませてあげてほしい」というのが、支援・医療現場のスタッフの切実な思いです。それは子どもを追い詰めてしまった親たちも同じです。

親や教員は過剰適応といった「現在のリスク」が見えづらく「子どもに休みを許したら不登校になってしまう」「がまんを覚えさせた方がいいのでは」と将来のリスクを考えてしまいます。不登校で悩む親から、フリースクールに、こんな相談が寄せられました。

実際の相談

不登校の話を調べると、無理させていくと子供のメンタルに影響するという話を聞いたり見たりするので、あまりに嫌がるようなら休ませたいと思っていますが、自分の中で休ませていい基準がわかりません
子どもが休みたいと言ったら、すぐに休ませてあげた方がいいのか、励まして何度か聞いても駄目だったら、休ませていいのか悩んでしまいます。

同趣旨の相談は多く寄せられますが、上記の親はリスクを読み違えて子どもを追い詰めてしまう可能性もあります。当然ながら子どもを追い詰めたい親や教員はいません。基準が解れば適切な休息を保障することができます。その基準が解るのが「学校休んだほうがいいよチェックリスト」です。

チェックリストの周知によって、不登校で苦しむ子、自殺にまで追い詰められる子は減っていくと私は確信しています。

チェックリスト作成者のご紹介

続いて、「学校休んだほうがいいよチェックリスト」の作成者をご紹介します。いずれも、子どもの心理や不登校に詳しい専門家です。

松本俊彦の写真

監修:松本俊彦

精神科医。国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長。著書に『助けてが言えない 子ども編』(日本評論社)など多数。

石井しこうの写真

作成者:石井しこう

不登校の専門紙「不登校新聞」代表。自身も不登校であり不登校の取材を続けてきた。

半村進の写真

作成者:半村進

キズキ共育塾」(※)不登校専門 相談スタッフ。1982年生まれ、東京大学文学部卒。これまでに1,000名以上からの相談を実施。自身も、いじめの対象になる、学校に行きづらくなる、5年半引きこもるなどを経験している。

※株式会社キズキが運営する、不登校・中退・ひきこもり・発達障害・通信制高校生の方向けの完全1対1個別指導塾。5都府県・オンライン含め11校舎を展開しており、卒業生は約4,500名。

安田祐輔の写真

作成者:安田祐輔

1983年生まれ。株式会社キズキ代表取締役社長。発達障害によるいじめ、一家離散などを経て、偏差値30から学び直して国際基督教大学入学。卒業後、総合商社を経て、キズキを立ち上げ。現在は、不登校・中退・ひきこもり・発達障害・通信制高校生の方向けの完全1対1個別指導塾「キズキ共育塾」、自治体から委託を受けた貧困家庭支援、うつや発達障害の方向けの就労支援「キズキビジネスカレッジ」等の事業を展開。

中里祐次の写真

作成者:中里祐次

オンラインフリースクール「Branch」代表。発達障害や不登校の子とその家族が幸せになるために、好きで人とつながることで孤独をなくし、好きで可能性が伸びる環境づくりをしています。現在100家庭以上がBranchを利用中。

このように、「学校休んだほうがいいよチェックリスト」には、精神科の医師や不登校支援を行っている専門家が携わっています。

お子さんを休ませるかどうか迷ったときは、ぜひこのチェックリストを活用して、お子さんの状態にあった判断をすることを心掛けてみてください。

チェックリスト作成者からのメッセージ

学校休んだほうがいいよチェックリスト」の監修者・作成者から、保護者の方へのメッセージ(インタビュー)を紹介します。(※随時更新します)

松本俊彦の写真

監修者:松本俊彦(精神科医。国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部部長)

このチェックリストは、子どもを取り巻く状況に課題があると思い、「不登校新聞、Branch、キズキという専門家たちの経験に基づき作成し、私の知見で監修を行ったもの」です。

経験上、お子さんを休ませることで「問題」になるケースは、ありません。一方で、無理に登校させることで「問題」が生じるケースはあります。

とはいうものの、親は、子どもを学校を休ませるかどうか、判断に迷うはずです。このチェックリストは、その判断の際に背中を押すツールとして使ってほしいです。

子どもは、(自分が悩んでいること、自分が学校に行きたがらないことによって)親を悲しませたくないと思っています。そして、傷ついている子どもは、「自分の心のエネルギーが失われている、心が疲弊している」という自覚ができません。

そうした子どもは、やがて気力がなくなり、消えたい気持ちや自殺念慮を持つようになっていきます。お子さんがそういう状態であるとわからないことが、一番こわいのです。

だから、子どもたちがそうならないように、休ませるべきかどうかを判断できる、このチェックリストを作りました。「学校を休ませる」という勇気ある決断の一助となれば幸いです。

お子さんも親御さんも、無理をしないでください。子どもは、学校を長く休んでも、キャッチアップできます。子どもには、自然治癒力があるのです。親御さんには、子どもが治癒する時間を待ってほしい、そして子どもの健康さを信じてほしいと思います。

石井しこうの写真

作成者:石井しこう(不登校新聞)

どんな親でも、どんなに不登校の知識があっても、いざ我が子が学校に行かない・行き渋るとなったとき、冷静に考えることはできません。

「我が子が学校で苦しんでいた」ということがあってほしくない、将来が心配などの理由で、子どもの状況に目をつぶって学校に行かせる…というケースをたくさん見てきました。

そうした親御さんたちからは、「子どもに学校を休ませるべきかどうかを判断できる、確かな基準がほしい」という要望が、長年言われてきました。

そのように言われたとき、これまでの私は、「判断基準はお子さんそれぞれ、ケースバイケースです」と言い続けてきました。ですが、「基準」があれば、親御さんのためにも、お子さんのためにもなれるのに…という思いもありました。

そこでこの度、「お子さんたちに最低限共通する判断基準」として、このリストを作成しました。

「このリストが存在すること」は、判断に迷って子どもを追い詰めることになった、これまでの親御さんの悲願でもあります。このリストの周知によって、親が子どもを追い詰めることが減り、休みやすい子どもが増えることを願っています。

半村進の写真

作成者:半村進(キズキ共育塾)

これまで、本当にさまざまな保護者さまから、たくさんのご相談をお受けしてきました。特に夏になるとよく寄せられる、2つのご相談があります。

一つは、「実家への帰省が近くなる中、父母(子どもから見た祖父母)に『子どもを休ませていること』をどうやって説明したらいいのかわかりません。父母は、『学校には行かせるべき』と強く思っていて、つらいです」というもの。

もう一つが、「配偶者が、『学校を休ませてはダメじゃないか』と言います。子どもの状況をどう説明し、どう説得していいのかわかりません」というものです。

そうした相談は、やはり2023年の夏もお受けしました。私としても、なんとか力になりたいと思っていましたが、私だけの言葉では説得力が足りないのではないかと悩んでいました。

だからこそ、素晴らしい作成者・監修者のもとに今回の「学校休んだほうがいいよチェックリスト」を作成でき、世に出せたことを本当に嬉しく思います。

(LINEが使えるのなら)どこにいるどんな親御さんでも無料で利用できて、「信頼できる複数の専門家がこう言っている」と、周囲に伝えることができます。きっと親御さんのお力になると思います。

これからは、上記2つのお悩みに苦しむ方々が減ると、信じています。

【2023年10月】チェックリスト活用を〜「不登校に至る重大いじめ」の大半が見過しのおそれ〜

チェックリストの回答を分析した結果、不登校の要因である「いじめ」に関係して、「学校を休みたい」と感じている人が多いのではないか、ということが見えてきました。

一方で、文部科学省が公表している諸課題では、いじめが関連する不登校は少ないとしています。

この矛盾を調査するため、2023年10月、教育学者・鈴木翔さん(東京電機大学准教授)が、不登校に関する文部科学省の2つの調査(※)を分析しました。


1:2023年10月公表「令和4年度児童生徒䛾問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(対象は、小中学校における長期欠席者のうち不登校児童数 299,048人)

2:2021年10月公表「令和2年度不登校児童生徒の実態調査 」(対象は、令和元年度に不登校だった児童生徒 2,016人)

分析によって、「『不登校の要因がいじめであるかどうか』について、学校と当事者(不登校の小中学生)の認知差は、小学生で63倍、中学生で85倍の開きがあり、両調査の結果には大きな解離がある」ことがわかりました。

文部科学省の調査のうち、「不登校になった要因」を学校が回答した結果(上記1)では、いじめによって不登校になった小中学生の割合は、小学生で0.3%、中学生で0.4%と、不登校全体の1%にも満たない数字です。

一方で、同じ文部科学省の調査でも、当事者である不登校の小中学生が回答した結果(上記2)では、「いじめ」を理由に挙げた小学生は25.2%。中学生でも25.5%とともに25%を超えています。

両者の認知差に大きな開きがあると言えます(調査年度や手法が異なるため単純比較はできません)。

分析の結果を受け、不登校支援を行う3つの団体(キズキ、不登校新聞、Branch)と鈴木翔さん、いじめを受けた当事者である「さゆり」さんが18日に記者会見を開き、「不登校に至るいじめの大半が見過ごされた恐れがある」と訴えました。

以下、それぞれのコメント要旨です。

不登校や中退を経験した子どもからの相談に対応しているキズキ共育塾の半村進は、「ネットの普及でいじめは大人から見えづらくなっている。教育現場を責めるだけでは問題の解決につながらない」と指摘。

不登校の子らが集うフリースクールBranchの中里裕次さんは、「まずはお子さん本人にとってストレスになる環境から遠ざけ、ゆっくり休ませることが大切」と休息の必要性を説きました。

当事者である「さゆり」さんは、「いじめ被害にあったことはもちろん、いじめを訴えたが(学校に)見過ごされてしまったことも心の傷になっている」と訴えました。

不登校新聞の石井しこうさんは、「(不登校の要因については、)当事者である児童生徒に直接聞くなど調査方法の見直しをはかるとともに、『学校休んだほうがいいよチェックリスト』などを活用して子どもを守ってほしい」と求めています。

メディア掲載情報

学校休んだほうがいいよチェックリスト」についてのメディア掲載一覧は、こちらのお知らせ記事をご覧ください。

関連コラム・記事・インタビューのご紹介

学校休んだほうがいいよチェックリスト」に関連するコラム、記事、インタビューをご紹介します。

参考:お悩みの相談先のご紹介

参考として、「学校への行き渋り」「学校を休みたいこと」に限らず、保護者さまやお子さん本人が利用できる相談先の一覧を紹介します。

  • 「不登校・引きこもりと勉強・受験などのご相談」は、私たちキズキ共育塾でもお受けしています。また、「勉強が関係しない、不登校・引きこもりについてのご相談」は、キズキ共育塾のココナラカウンセリングもご利用ください。
  • 不登校についての情報、親の会としての活動などについては、不登校新聞もご覧ください。
  • 発達障害・不登校のお子さんの居場所については、Branchもご覧ください。
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