
これっていじめ?いじめの定義や種類、対処法をご紹介します

キズキ共育塾の井上敦司です。
いじめに関する報道を見聞きする機会は少なくありません。
まわりの人からいじめの体験談を聞いたり相談を受けたりしたことがある、という人も多いのではないでしょうか。
- 「身近にいる子どもがいじめを受けているかもしれない」
- 「どこからどこまでがいじめなの?」
- 「どう対処すればいいの?」
そんなお悩みをお持ちのあなたに、今回は、文部科学省や研究者が出している本・資料などをもとにして、いじめの定義、分類、対処法をご紹介します。
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目次
いじめとは何か?
残念ながら、現代において、いじめは珍しいものではなく、どの学校でも、どの子どもにも起こりうるものです。
いじめがないことはよいことですが、学校や社会が「いじめゼロ」を目標に掲げると、現に起きているいじめを見逃すことに繋がる可能性があります。
よって、重要なのは、「いじめがあるのではないか」という認識に立ち、いじめの予防や対処の検討・実施を進めていくことだといえるでしょう。
さて、そもそもいじめとは何でしょうか。
まずは、文部科学省や研究者がどう定義しているか、見てみましょう。
①文部科学省による定義

文部科学省による最新の定義がこちらです。
「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」
(「いじめ防止対策推進法」2013年施行、第2条より)
「当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」とあるように、いじめの定義の中心を「本人の被害感」にしています。
これは、精神的なダメージやトラウマは外から判断しづらく、また、加害行為を見分けることが困難な場合があるからです。
それゆえ、いじめの形式や特徴を具体的に示さないことによって、教職員の恣意的な判断を避けるよう定義されています。
2006年時点でも、
「自分より弱い者に対して」
「一方的に」
「継続的に」
「深刻な」
など、いじめの具体的な形式・特徴に関する文言が削除されています。
(「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」より)
②研究者による定義

それでは、研究者はいじめをどう定義しているでしょうか。
いじめ研究で有名な森田洋司氏(大阪市立大学名誉教授)は、次のように定義しています。
「いじめとは、同一集団内の相互作用過程において優位に立つ一方が、意識的に、あるいは集合的に他方に対して精神的・身体的苦痛をあたえることである」
(森田洋司『いじめとは何か?(中公新書)』2010年、中央公論新社、p.95より)
こちらもやはり、「本人の被害感」を定義の中心にしています。
「集合的に」という文言には、「意識的ではないとしても、人々が集まることによって集団心理が働くことがある」という意味が込められています。
先の文科省による定義と比べると、「集合的に」という文言のほか、「優位に立つ一方が……他方に対して」という文言も気になります。
これは、定義した森田氏によると、「同程度の力を持った人同士での喧嘩や口論とは違い、いじめがパワーバランスの不均衡に乗じて起こること」を示しているそうです。
以上のことをまとめると、次のことが言えます。
- いじめの対応をするにあたっては、まず「本人の被害感」を基礎として問題を認識しようとする姿勢が必要
- その際、学校や教室、部活動などの集団においてどのような力関係が生じているかを見ていかなければならない
これっていじめ?
文科省による定義と、研究者による定義を見ました。
どちらも「本人の被害感」を基礎に据え、具体的な特徴や形式をいじめの定義から除外することによって、いじめを幅広くとらえようという姿勢が見られました。
本章では、その姿勢を引き継ぎつつも、いじめを幅広く捉えるために、またいじめの実情を知るために、いじめの分類をチェックしてみます。
①いじめの分類――滋賀県大津市のアンケート紹介から考える

2011年、滋賀県大津市で、いじめを苦にして中学2年生の生徒が自ら命を絶ちました。
この事件を受けて、大津市は、外部の専門家による第三者委員会を設置し、また、条例や行動計画を作成し、いじめ問題に取り組みました。
その際に行われた大規模のアンケート調査では、便宜的にいじめが分類されています。
(1)軽易ないじめ
- からかわれたり、悪口やおどし文句、嫌なことを言われたりした
- 仲間はずれにされたり、無視されたり、陰で悪口を言われたりした
- 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりした
(2)重篤ないじめ
- ひどくぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりした
- お金や物を、おどし取られたり、おどし取られそうになった
- お金や物を隠されたり、盗まれたり、壊されたり、捨てられたりした
- 嫌なことや恥ずかしいこと、危険なことをされたり、させられたりした
(3)ネットいじめ
- パソコンや携帯電話で、嫌なことをされた
アンケート調査では、この分類をした上で、被害経験率を整理しています。
その結果を見ると、次のようなことが言えます。
- 軽易ないじめが最も多い。
- 続いて「軽易ないじめと重篤ないじめ両方」が多い。
- ネットいじめの被害経験のある人は、全体の中でごく少数。
- さらに、ネットいじめ単体で発生することは極めて稀であり、軽易ないじめや重篤ないじめ(あるいはその両方)が発生しエスカレートしていく過程で、ネットいじめも発生する。
重篤ないじめやネットいじめは目立ちますが、それだけに目を向けてしまうと、いじめのごく一部しかとらえられなくなってしまいます。
なので、軽易ないじめにも注意を払い、いじめをより広い問題としてとらえることで、いじめの重大化を防ぐことができるのです。
また、繰り返しになりますが、いじめを定義する上で重要なのは「本人の被害感」です。
まわりの人の経験則で「いじめかどうか」を判断してしまったり、上記の分類を見て、「これは軽易なものだから対処しないでよい」などと理解してしまったりすることは、問題の重大化を招く恐れがあるのでやめた方がいいでしょう。
②いじめは犯罪か?

いじめの分類を見ていると、次のように思う方もいるでしょう。
「いじめって、犯罪なのでは?」
「学校で対処せずに、すべて警察に届け出るべきでは?」
たしかに、暴力や恐喝など、いじめには犯罪として扱うべきものがあります。
文科省の最新の定義にもそのような記述があり、「場合によっては警察に相談・通報が必要な事態もあること」が示されています。
一方で、いじめをすべて「犯罪」の観点から扱おうとすることによって、予防や対応が不十分になってしまう恐れがあるという指摘があります。
どういうことでしょうか。
荻上チキ『いじめを生む教室(PHP新書)』(2018年、PHP研究所)では、このように論じてあります。
〔…〕確かに暴行や恐喝は犯罪であり、こうしたケースについては警察などとの連携を増やしていかなくてはなりません。
〔…〕
しかし、いじめには大きく分けて、「暴力系いじめ」と「コミュニケーション操作系いじめ(非暴力系いじめ)」の2つがあります。〔…〕
現代日本の場合、大半のいじめは「コミュニケーション操作系いじめ」です。こうしたいじめも、「暴力系いじめ」と同じように「犯罪」として取り扱い、「警察に通報」しさえすれば、解決するでしょうか。いえ、そもそも「犯罪」としての要件を満たさないケースが多いため、難しいでしょう。(pp.29-30)
無視、仲間外れ、嫌なあだ名をつける、嫌なキャラを押しつけるなどの「コミュニケーション操作系いじめ」は、(現行法では)犯罪として扱いきれません。
つまり、全てのいじめを犯罪の観点でとらえようとすると、「犯罪ではない(犯罪として扱いきれない)いじめ」が「いじめではない」として見落とされてしまう可能性があるのです。
犯罪ではない「コミュニケーション操作系いじめ」は、当事者が被害感を覚えていればもちろんいじめに該当しますし、やがて重篤ないじめへと発展する可能性もあります。
以上のことから、いじめの予防・対策をより万全にするためには、やはり、いじめをより広い概念としてとらえることが重要だと確認できます。
いじめへの対処法
ここまで、「いじめとは何か?」を、見てきました。
それでは、実際に身近にいる子どもがいじめ被害にあっている・あっていそうだと思われるとき、まわりの大人や学校はどんなことができるでしょうか。
①あなたにできること
大人であっても、一人でいじめを防ぐ・対処するのは難しく、複数人で、組織的に予防・対処をすることが理想的です。
子どもたちも、まわりの大人の振る舞いによって、SOSを発信したり相談したりといったことが可能になり、それによっていじめの重大化を防いだり、問題を一人で抱え込むことを避けられます。
具体的な方法については、次のコラムをご覧ください。
○どうしていじめは起こるの?いじめの原因と対策・予防、対応法まとめ
また、次章「相談先」をご覧になって、公的・民間の相談機関を頼ることもオススメです。
②学校にできること
前述した滋賀県大津市での事件を受けて、国は、「いじめ防止対策推進法」という法律を制定しました。
「いじめ防止対策推進法」では、国や自治体などがなすべきいじめの防止・早期発見・対処が明記してあります。
「特定非営利活動法人ストップ!いじめナビ」に所属する弁護士たちは、この法律の画期的な特色を、次のように整理しています。
- いじめの定義を広くとらえ、早期発見の重要性を強調していること
- これまで教員個人に任されてきた対応を組織的に行うよう求めていること
- PDCAサイクルによる定期的な見直しを前提とした、継続的で効果的な施策の実行が求められていること
- いじめが重大事態に発展した際の対応について特に取り上げ、様々な義務等が明記されていること
(真下麻里子他『スクールロイヤーにできること』2019年、日本評論社、pp.130-131)
この法律の22条では、いじめ防止対策のために組織をつくることが規定されています(そのため、「22条組織」と呼ばれます)。
22条組織の窓口となる先生が決められているはずですので、まずはその先生に相談してみるということも可能です。
また、学校によっては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを配置しているところがあります。
これらは、いじめに関する相談も受けつけているので、子どもが在籍している学校に配置されているかどうかチェックしてみてください。
相談先

重篤ないじめについては、警察や司法による対応を求めることも検討すべきでしょう。
ただし、いじめの多くは軽易なもの(が含まれることが多い)です。
先ほども述べましたが、軽易ないじめなどは、現行法では警察が「犯罪」として取り扱うことができないものもあります。
その場合、公的・民間の相談先を把握したり紹介したりするなどして、重大化を防いだり解決したりする手段を取ることが重要だといえます。
以下、相談先をいくつかご紹介します。
子ども用の連絡先も掲載しますので、もしお悩みの子どもがいるようでしたら、ご紹介ください。
あなた(大人)が相談するにしろ、子どもが相談するにしろ、
「頼りにならなかったな」
「自分の状況に合わない回答だったな」
となる可能性は、残念ながらあります。
そんなときは、心が落ち込むかもしれませんが、決してあきらめず、別の相談機関などを頼るようにしてください。
【学校の「22条組織」の窓口になっている先生】
「いじめ防止対策推進法」にもとづいて、学校ごとに設置されているいじめ防止対策のための組織があります。
心理、福祉などの専門的な知識を有する人も構成員になっており、また、組織的な対処が望めます。
窓口となっている先生がいるはずですので、探してみてください。
【24時間子どもSOSダイヤル】
子ども用に文部科学省が設置している電話相談です。
受付日時:毎日、24時間対応
電話番号:0120-0-78310
【チャイルドライン】
18歳までの子ども用の相談窓口です。
受付日時:毎日、午後4時~9時まで(12月29日~1月3日を除く)。
電話番号:0120-99-7777
【子どもの人権110番】
子ども用に法務省が設定している電話相談です。
受付日時:平日、午前8時30分~午後5時15分まで。
電話番号:0120-007-110
【その他】
最寄りの警察署、弁護士事務所、いじめ関連の支援団体などもあります。
あなたも子どもも、決して孤立していません。
ぜひ、積極的に相談先や頼れるところを探してください。
まとめ〜あなたは一人ではありません〜

今回の記事をまとめます。
いじめは、どの子どもでも、どの学校でも起こりうることです。
予防・対処のためには、「本人の被害感」を基礎に据えて、いじめをより広い概念としてとらえる姿勢が重要です。
また、いじめ防止対策推進法で明示されているように、いじめ問題は、組織的な対応が求められています。
あなたは、決して一人ではありません。
保護者や家庭だけで解決しようとせず、学校や専門機関などと協力していきましょう。
1件でも多くのいじめが解決するよう、祈っています。
さて、私たちキズキ共育塾では、いじめで傷ついた子どもの心と勉強のサポートを行っています。
無料相談も行っていますので、少しでも気になるようでしたら、お気軽にご相談ください(保護者の方だけでのご相談も可能です)。
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