「不登校」をアメリカの制度から考える~実体験からお伝えします~

「不登校」をアメリカの制度から考える~実体験からお伝えします~

学校が苦手な人たちのための完全個別指導塾・キズキ共育塾の大川里美です。早速ですが、私は今、総合病院で相談員としても働いています。

受ける相談の内容は、妊婦、子ども、高齢者などの方々から、生活面、経済面、家族のことなど、様々です。

その中で、小中高校生の本人やご家族から、不登校に関する相談を受けることがあります。

そういう相談を受けたとき、私は決して「学校に行きなさい」とは言わないようにしています。

代わりに、学校以外でも勉強できる選択肢をお伝えし、本人・ご家族が選択肢を広げて検討できるようなサポートを心がけています。

今回は、私が「学校以外でも勉強できる」と思うようになった私自身の学生時代の経験や、アメリカの学校制度などについてお伝えします。

共同監修・不登校新聞社 代表理事 石井志昂氏からの
アドバイス

学校へ行かない子どもを「ひきこもりの子」と呼ぶのか、「ホームスクールの子」と呼ぶのかでは大きな違いがあります。子ども本人と親の気持ちが前向きになるという点が特に大きな違いになるでしょう。

アメリカでは100万人以上の人がホームスクールで学んでおり、本コラムの執筆者はそうした仕組みを知って驚いたという、貴重な実体験を書いてくれました。

日本でも1941年まではホームスクールが認められていました。マンガ「ベルサイユのばら」でも、(当時のフランスで)ホームスクール(家庭教育)が行われている様子が描かれています。本コラムを読むことで、認識が変わるかもしれません。

英語がわからず、アメリカの学校で一人取り残されていた…

私は中学生のとき、不登校にこそならなかったものの、毎日のように「なんで、学校に行かなくてはいけないの?」と思っていました。

私以外にも、誰もが一度は抱いたことがある疑問なのではないかと思います。

私は、小学6年生から高校4年生までアメリカに住んでいました(アメリカの高校は4年制です)。

アメリカの中でも、熊、鹿、リスなどが出てくる郊外で、移動手段は車のみです。

両親の「アメリカの環境や英語にたくさん触れてほしい」という想いから、私と兄はあえて日本人がいないアメリカの学校に通うことになりました

今のように、日本の小学校で英語を教えている時代ではありません。

アメリカに行ったばかりの私が知っている英語は「apple」くらいでした。

そんな私がアメリカの学校に行き始めたのです。

学校に行っても、周りが何を話しているか分からない、授業もわからない、友達もできない、ただただ一日が終わるのも待つ日々。

大勢の中、一人取り残された気分でした

私の場合はそういう理由で「なんで学校に行かなきゃいけないの?」と毎日思っていたのです。

とは言え勉強は大切だと思っていたので、学校に通って、後述する外国人用のサポートも受けながら、学校から帰宅後に辞書を片手に英語で書かれた教科書を読んで、基本的には一人で勉強をしていました

つまり、学校の授業がわからなくても、家で勉強できたということです。

この経験を通じて、私は「学校だけが勉強できる場所ではない」と思うようになりました。

「家で一人で勉強なんてできないよ…」と思うかもしれません。ですが、まずは「学校以外でも勉強できる」ということをご理解いただければと思います。

もちろん学校は、勉強以外にも、友人をつくったり、部活に励んだり、規則正しい生活をしたりなど、勉強以外にも得られるものがある場所です。

でも、そうしたことも、学校以外でもできますよね。

学校に行くのがつらいなら、「義務教育だから」「親が行きなさいというから」…などといった理由で無理に行くことはないと思います。

アメリカの義務教育では、「学校以外での勉強」も可能です

アメリカの義務教育では、「学校以外での勉強」も可能です

日本では、義務教育とは「小・中学校に行って勉強すること(教育を受けること)」になっています。

アメリカの場合、義務教育とは「高等教育までを勉強すること(教育を受けること)」です。学ぶ場所が学校であるかどうかは問いません。

そのため、アメリカでは、自宅で勉強をする「ホームスクール制度(ホームスクーリング)」が確立されているのです。

ただし、私のように「自分一人で勉強する」ということではありません。ホームスクールでは、自宅で親や派遣教師から勉強を教わります。

日本で育った私は「勉強は学校でするものだ」と思っていたので、アメリカに行ってホームスクール制度を知ったときは、とても驚きました。

アメリカ教育省のウェブサイトを見ると、「2012年度には、就学年齢にあたる5〜17歳のうち、全米で約177万人がホームスクールで学んでいる」と公表されています。

私自身の経験に加え、アメリカではホームスクールで学んでいる人が少なからずいることが、「学校以外でも勉強できる」ことの根拠になると思います。

また、ホームスクールで学んだ場合、GED(General Education Development)を受ければ、大学受験も可能になります。

GEDとは日本で言う高卒認定のような試験であり、5教科の試験に合格すれば、「高校までの教育を修了した者と同等以上の学力を有すること」の証となります。

ホームスクール制度があり、「学校に行かないこと」が「選択肢の一つ」に過ぎないアメリカには、不登校という概念自体があまりないように感じました。

アメリカの学校の柔軟なサポート体制と多様な価値観

アメリカの学校の柔軟なサポート体制と多様な価値観

話をアメリカの学校に戻します。

アメリカの学校には、学生をサポートするための柔軟な制度がありました

アメリカではクラス制度(ホームルーム)がなく、また学校には「教科の教師」以外にもたくさんの大人がいて、生徒はいろんな人と触れ合うことができます。

私も、次のような様々な方と触れ合ってきました。

  • 教科のサブの先生
  • スクールカウンセラー
  • 部活の外部コーチ
  • 図書館のスタッフ
  • 保健室の先生
  • ボランティアの方々など

さっきお伝えしたとおり、私は英語による授業が理解できないために、自宅で一人で勉強していました。

そんな私は、学校の「通常の授業」は、半分以上を出席さえしていませんでした。

私に「通常の授業に行かなくてもいい」「英語が上手く話せなくてもいい」と言ってくれる大人がたまたま学校にいたのです。

そのアドバイスを受けて、私は、「外国人をサポートする教室」で「通常」とは違った授業やテストを受けて、出席日数や単位を取得していました。

外国人用のサポート以外にも、少人数クラスや個別クラスなど、様々なタイプのサポートがありました。

私以外にも「通常の授業」に参加せずに各種サポートを受けていた同級生が多くいたため、「通常の授業を受けていないこと」を気にしなくてすみました。

そんな学校生活が3年以上続き、外国人をサポートしてくれる先生に個別に教えてもらうことで、英語による授業を理解できるようになっていきました。

中学生のときは毎日「学校に行きたくない」と思っていた私は、途中欠席しながらも、本格的な不登校にはならずに高校卒業まで学校に通えました。

これは、学校に柔軟なサポートがあり、通常の授業に参加しなくてもよく、またいろんな大人の人や価値観に触れ合うことができたからだと思います。

日本でも、不登校中に勉強できる環境が整いつつあります

ここまで、私のアメリカの経験についてお伝えしてきました。

あなたはもしかしたら「日本にはアメリカみたいな制度はないから、日本で不登校な自分の参考にはならない」と思っているかもしれません。

たしかに、日本では学校以外で勉強することは、まだ一般的ではない印象があります。

学校に行って勉強することを「当たり前」だと考える人が多く、不登校の人たちが学校に行けないことがプレッシャーになる場合もあります。

しかし、日本でも学校以外で勉強できる環境が整いつつあります

日本では、お住まいの自治体によって、学校以外での勉強できる環境や制度があります。

例えば東京都渋谷区の場合は相談指導教室「けやき教室」という仕組みがあります。不登校の学生などに向けて、個別の支援や少人数による集団生活や体験学習を行っています。

同じく渋谷区の「若者サポート事業」では、義務教育を修了した人の相談支援を行っています。義務教育後もサポートしているのはとても珍しいです。

お住まいの自治体によっては具体的な取り組みは違っているので、詳細については調べてみることをオススメします

自治体以外にも民間の支援としてフリースクールがあり、不登校の人などの居場所になっています。

私たちキズキ共育塾も、「学校以外での勉強」「学校以外でのコミュニケーション」ができる場所です。

キズキ共育塾は、不登校・中退・ひきこもりなどの当事者・経験者がもう一度勉強するための個別指導塾として、勉強だけではなく、一人ひとりのお悩みや気持ちに寄り添った支援を行っています。

不登校の状態からキズキ共育塾に通い、高卒認定を取得して大学や専門学校に進学した人はたくさんいます。

このように、日本でも学校以外で勉強できる制度や環境は、整いつつあります。

自治体やフリースクールや塾などに問い合わせをしたり、実際に行ってみたりするのは、ハードルが高かったり、ためらったりするかもしれません。

また、学校以外で勉強することに抵抗がある人もいるでしょう。

それでも、一歩踏み出したら、そこには違う環境、手を差し伸べてくれる人、そしてあなたの話を聞いてくれる人がいます。

勇気はいるかもしれませんが、まずは相談してみることをオススメします

まとめ:アメリカの制度に限らず、広い視野で「不登校」を捉えてみて

まとめ:アメリカの制度に限らず、広い視野で「不登校」を捉えてみて

「なんで、学校に行かなくてはいけないの?」と思っているあなたにまずお伝えしたいことは、「つらいなら無理して学校に行かなくてもいい」ということです。

勉強も、それ以外のことも、学校以外でもできるからです。

また、「不登校」という状態や悩みは、「いまの日本」がそういう環境になっているからに過ぎません。

「いまの日本」の決まりや価値観は、絶対的な基準ではありません

お伝えしてきたように、例えばアメリカでは、学校に行かずに家で勉強することもできますし、「通常の授業」に出席しないこともできます。

世界には様々な文化や環境や価値観があります。

「いまの日本」で学校に行けないからと行って、「不登校の自分はダメな人間だ」などと思わないでください。

勉強したり、様々な知識や経験を得たりすることはとても大切なことです。

ですが、何度も繰り返すように、それは学校でなくても得られることです。

広い視野で物事を捉え、あなたが自分らしくいられる選択肢を探してみてください。

学校以外の勉強やコミュニケーションの場所としてキズキ共育塾に興味を持たれた方は、ぜひ無料相談をご利用ください。

様々な経験をした講師とスタッフがあなたを待っています。

監修 / キズキ代表 安田祐輔

やすだ・ゆうすけ。発達障害(ASD/ADHD)によるいじめ、転校、一家離散などを経て、不登校・偏差値30から学び直して20歳で国際基督教大学(ICU)入学。卒業後は新卒で総合商社へ入社するも、発達障害の特性も関連して、うつ病になり退職。その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。経歴や年齢を問わず、「もう一度勉強したい人」のために、完全個別指導を行う。また、不登校の子どものための家庭教師「キズキ家学」、発達障害やうつ病の方々のための就労移行支援事業所「キズキビジネスカレッジ」も運営。

【新著紹介】

『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法』
(2022年9月、KADOKAWA)
Amazon
KADOKAWA公式

【略歴】

2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)

【メディア出演(一部)】

2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

共同監修 / 不登校新聞社代表理事 石井志昂

いしい・しこう。
1982年、東京都町田市出身。NPO法人全国不登校新聞社代表。
中学校受験を機に学校生活が合わなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から2022年まで編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた。

【著書など(不登校新聞社名義も含む)】

「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること(ポプラ社)』『フリースクールを考えたら最初に読む本(主婦の友社)』『学校に行きたくない君へ(ポプラ社)』『続 学校に行きたくない君へ(ポプラ社)』

【寄稿など(一部)】

AERAdot」「プレジデントオンライン」「東洋経済オンライン」「FRaU」など多数

サイト運営 / キズキ

「もう一度学び直したい方」の勉強とメンタルを完全個別指導でサポートする学習塾。多様な生徒さんに対応(不登校・中退・引きこもりの当事者・経験者、通信制高校生・定時制高校生、勉強にブランクがある方、社会人、主婦・主夫、発達特性がある方など)。授業内容は、小学生レベルから難関大学受験レベルまで、希望や学力などに応じて柔軟に設定可能。トップページはこちら。2023年7月現在、全国に10校とオンライン校(全国対応)がある。

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