母子分離不安とは? 原因や親ができる対応を解説
こんにちは。生徒さんの勉強とメンタルを完全個別指導でサポートする完全個別指導塾・キズキ共育塾です。
お子さんが保育園や幼稚園、学校などに行きづらくなる原因の1つに、母子分離不安があります。
お子さんに母子分離不安の傾向が見られる場合、親御さん、特に母親であるあなたは、以下のようなことで悩んでいるのではないでしょうか?
- 一時的に離れるだけなのに、子どもがとても不安がったり泣いたりする…
- 小学生になったのにべったりで、登校すらままならない…
このコラムでは、母子分離不安の傾向があるお子さんについて悩む親御さんに向けて、キズキ共育塾の知見から、母子分離不安の概要や症状、特徴、母子分離不安で不登校になった場合の対応方法などについて解説します。あわせて、母子分離不安に関する相談先も紹介します。
このコラムを読むことで、母子分離不安の傾向があるお子さんへの対応方法や相談先が分かり、親子共に不安を減らせるはずです。
なお、このコラムは、母子分離不安が長期化・深刻化した場合に診断される可能性がある、分離不安症に関する情報に基づいて、母子分離不安について解説しています。
目次
母子分離不安とは?
この章では、母子分離不安の概要について解説します。
私たちキズキ共育塾は、母子分離不安のある人のための、完全1対1の個別指導塾です。
生徒さんひとりひとりに合わせた学習面・生活面・メンタル面のサポートを行なっています。進路/勉強/受験/生活などについての無料相談もできますので、お気軽にご連絡ください。
母子分離不安の概要
母子分離不安とは、一般的に子どもが母親や愛着対象から離れることに対し、強い不安を感じる状態のこととされています。
なお、母子分離不安は、医学的に正式な診断名ではありません。
赤ちゃんが知的・感情的に成長すると、親や養育者を認識し絆が生まれ、その相手から離れないようになります。
そして、親や療育者として認識した人、特に接する時間が長くなりやすい母親などが離れたり、見知らぬ人が現れたりすると、不安や恐怖を感じるようになるのです。
つまり、子どもが母親から離れることに対して不安がったり泣いたりすることは、正常な発達の一部なのです。(参考:MSDマニュアル 家庭版「分離不安および人見知り」))
補足:分離不安症との違い
こちらで解説したとおり、子どもが親から離れることに不安や恐れを抱くのは、発達の一過程です。
ただし、その状態が極端に強く持続している場合には、分離不安症と診断されることがあります。
母子分離不安は、医学的に正式な診断名ではなく明確な定義もないため、分離不安症との違いは明確ではありません。
しかし、以下の分離不安症の診断基準から、症状の強さや持続期間の長さ、日常生活への影響の度合いなどが、母子分離不安と分離不安症の違いだといえるでしょう。
アメリカ精神医学会が定めた精神障害の診察基準『DSM-5』によると、分離不安症の診断基準は以下のとおりです。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
A.愛着をもっている人物からの分離に対する、発達的に不適切で、過剰な恐怖または不安で、以下のうち少なくとも3つの証拠がある。
(1)家または愛着をもっている重要な人物からの分離が、予測される、または経験される時の反復的で過剰な苦痛
(2)愛着をもっている重要な人物を失うかもしれない、または、その人に病気、負傷、災害、または死など、危険が及ぶかもしれない、という持続的で過剰な心配
(3)愛着をもっている人物から分離される、運の悪い出来事(例:迷子になる、融解される、事故に遭う、病気になる)を経験するという持続的で過剰な心配
(4)分離への恐怖のために、家から離れ、学校、仕事、または、その他の場所へ出掛けることについての、持続的な抵抗または拒否
(5)1人でいること、または愛着をもっている重要な人物がいないで、家または他の状況で過ごすことへの、持続的な抵抗または拒否
(6)家を離れて寝る、または、愛着をもっている重要な人物の近くにいないで就寝することへの持続的な抵抗または拒否
(7)分離を主題とした悪夢の反復
(8)愛着をもっている重要な人物から分離される、または、予期される時の、反復する身体症状の訴え(例:頭痛、腹痛、嘔気、嘔吐)
B:その恐怖、不安、または回避は、子どもや青年では少なくとも4週間、成人では典型的に6カ月以上持続する。
C:その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、学業的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D:その障害は、例えば、自閉スペクトラム症における変化への過剰な抵抗のために家を離れることの拒否;精神病性障害における分離に関する妄想または幻覚;広場恐怖症における信頼する仲間なしで外出することの拒否;全般不安症における不健康または他の害が重要な他者にふりかかる心配;または、病気不安症における疾病に罹患することへの懸念のように、他の精神疾患によってはうまく説明されない。
分離不安症は、以上の基準をもとに、子どもの行動観察や症状の内容と強さ、症状の持続期間などから、医師が総合的に判断して、診断を下します。
つまり、お子さんが母子分離不安なのか分離不安症なのかを判断するためには、病院を受診し医師の診察を受けることが必要なのです。
母子分離不安の症状
この章では、行動面と身体面の2つに分けて、母子分離不安の症状について解説します。(参考:ハートクリニック「こころのはなし」、ひだまりこころクリニック「【分離不安症】親離れできない人とは」)
症状①行動面
母子分離不安の行動面の症状としては、親が離れる際に過度に泣いたり、強く親にしがみついて離れようとしなかったりします。
また、アパシーという感情が鈍く、無気力な状態になることもあります。加えて、遊びや学業に集中できなくなるケースも見られます。
ほかの大人や子どもと過ごすことに不安を感じ、登園や登校に強い抵抗を示したり、ひきこもりがちになったりすることがあるため、不登校につながる場合もあります。
症状②身体面
母子分離不安の身体面の症状としては、不安からお腹が痛くなったり、頭痛を訴えたりすることがあります。これは、母子分離不安によるストレスが身体に及ぼす影響の一例です。
また、特に強い不安や恐怖を感じた場合には、吐き気やめまいが生じることもあります。
親が近くにいないと寝付けない、夜中に何度も目を覚ますなどの不眠症状、食欲の減退など、睡眠や食事などの日常生活に影響する症状もあるのです。
母子分離不安の特徴〜年代別に解説〜
母子分離不安の特徴は、子どもの年代によって異なります。この章では、4つの区分に分けて、母子分離不安の特徴について解説します。
特徴①0歳から3歳まで
赤ちゃんは生後8ヶ月頃から、親や養育者の姿が見えなくなると不安になり、泣き出すことが増えていきます。これは自然な成長の過程なので、心配する必要はありません。
ピークは1歳〜1歳半頃で、2歳頃になると対象の永続性、つまり、物や人は見えなくなっても、そこに存在し続けるということを理解しはじめるため、分離不安は落ち着き、ほかの大人や子どもとも過ごせるようになっていきます。(参考:MSDマニュアル 家庭版「分離不安および人見知り」)
また、母親が子どもの安全基地として機能しているかを判断するための実験として、メアリー・エインズワース氏によるストレンジシチュエーション法(SSP)があります。(参考:おおかみこころのクリニック「ストレンジ・シチュエーション法で分かること|活用法や注意点とは」)
この実験は、人見知りが激しくなる満1歳児を対象に行い、以下のような子どもにとってストレスがかかる状態でどのように反応するかを見るものです。
- 養育者と一時的に離れる
- 見知らぬ場所で見知らぬ人と対面する
そして、以上のような状況での子どもの反応を、以下の愛着の質のタイプに分類することで、母親が子どもの安全基地として機能しているかが判断できるのです。
タイプ | 子どもの反応 |
---|---|
回避型 | ・母親と分離しても混乱しない ・母親との再開時に接触しない ・母親の入室を無視し距離を置く |
安定型 | ・母親との分離時に混乱する ・再開時は母親に近づき落ち着く |
アンビバレント型 | ・分離時に激しく混乱する ・再開時に母親へ怒りや抵抗をぶつける |
無秩序型 | ・母親に怯えるような素振りを見せる ・母親よりも見知らぬ人に近づく ・見知らぬ人に怯えたときは母親から離れ壁にすり寄る |
母親が子どもの安全基地として機能していると判断される安定型の母子分離不安がある子どもは、母親と分離した際に混乱し、母親と再会すると落ち着きます。つまり、母親への愛着があるからこそ離れることで混乱が生じるのです。
逆に、母親と離れても混乱しない回避型の母子分離不安がある子どもは、母親に対して自ら愛着を示しても応えてもらえない経験をしており、愛着の表現が減るのです。
また、母親に怯える様子が見られる無秩序型の母子分離不安がある子どもは、親が子どもにとっての恐怖の対象となっていることが多く、虐待を受けている子どもの多くがこのタイプに分類されます。
分離時にあまりにも激しく混乱する場合は、アンビバレント型の母子分離不安があるかもしれません。このタイプは、親への安心感や信頼感が乏しいことから、親の関心や視線を引き留めるために激しく泣いたり不安がったりするのです。
そのため、お子さんがアンビバレント型に当てはまると感じられる親御さんは、こちらで解説する方法で、お子さんと接することから始めてみてください。
この実験から、母親と離れる際に、子どもが泣き出したり不安がったりしないことが、必ずしもいいことではない、着の形成ができていない可能性があるということがわかるでしょう。
特徴②3歳から小学校入学まで
保育園や幼稚園への入園を経験する時期の子どもは、何らかの不安を抱くことが多いものです。
こちらで解説した診断基準から考えると、保育園や幼稚園に登園でき、不安が時間とともに少なくなる場合は、分離不安症とはみなされません。しかし、登園できなかったり友人と遊べなかったりする場合は、分離不安症の徴候かもしれません。
天野菜穂子氏、宮本正一氏による研究では、 誕生月が遅い子どもほど、分離不安が強い傾向が見られました。 また、分離不安が最も強い子どもに末っ子が多い傾向も指摘されています。(参考:天野菜穂子・宮本正一「三歳児の幼稚園入園時の分離不安」)
さらに、耳鼻科検診のような、子どもにとって不安を感じやすい状況では、母子分離不安の傾向の強い子どもはより不安を感じやすく、パニックを起こしやすい傾向がありました。
加えて、母子分離不安の傾向の強い子どもほど、幼稚園教諭や保育士に密着する傾向が見られることも分かっています。
特徴③小学校低学年
小学校に入学してからは、母子分離不安によって登校が難しくなることもあります。
また、年齢が上がるにつれて、親や療育者と離れると事故や誘拐などに巻き込まれるのではという想像に苦しんだり、親や療育者と再び会えなくなるのではという漠然とした不安にかられたりするケースもあります。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
特徴④小学校高学年から成人
青年期の母子分離不安はまれですが、中には親や療育者からの独立に大きな不安を感じたり、大学への進学や一人暮らしを避けようとする人もいます。
成人してから母子分離不安の傾向が強い場合、転居や結婚などの機会を逃す可能性もあるでしょう。また、分離不安症の場合は、自分にとって大切な人の存在を絶えず確認しなければ気が済まず、社会人としての生活に影響が出るケースも見られます。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
母子分離不安は母親のせい?考えられる5つの原因
母子分離不安の原因は複雑で、ひとつに絞り込むことは難しいでしょう。
この章では、母子分離不安の原因について解説します。
原因①発達の一環
こちらで解説したとおり、乳児期の母子分離不安は発達の一過程であり、むしろ自然なことと言えます。
子どもは親や養育者との愛着を形成したあと、少しずつ自分の世界を広げていきます。その発達のプロセスが順調に進む場合もあれば、どこかで足踏み状態になる場合もあり、どちらも発達の一過程なのです。(参考:MSDマニュアル 家庭版「分離不安および人見知り」)
離れたときは泣いていてもすぐに落ち着きを取り戻すような場合は、発達の一環としての母子分離不安だと考えられます。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
原因②環境の変化
保育園や幼稚園、小学校などでの入園や入学、進級などの環境の変化は、誰でも不安なものです。子どもが、心の安全基地である親や養育者と離れることに大きな不安を感じるのは無理もないでしょう。
また、転居や身内の死など、子どもがこれまで経験したことのない出来事によっても母子分離不安は起こりやすいと考えられます。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
つまり、子どもを取りまく環境の変化が、母子分離不安を引き起こす可能性があるのです。
原因③家庭環境
家庭環境も、母子分離不安の原因の1つとなる場合があります。
親や療育者の過干渉・過保護などに加えて、両親の不仲や離婚が原因になることがあるかもしれません。
また、弟や妹が生まれたり、祖父母との同居が始まったりするなど、家族の関係性が大きく変わったことが原因となることもあるでしょう。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
お子さんに母子分離不安の症状がみられる場合、母親が「自分の育て方が悪かったのでは」と自責の念に駆られることがあります。
しかし、母子分離不安は決して母親だけの責任ではなく、母親以外の家庭環境も含めて、さまざまな要因が絡み合って起こることなのです。
原因④子どもの性別や性格
子どもの性別や性格によっても、母子分離不安の起こりやすさは異なります。
子どもにおける分離不安症には、遺伝性がある可能性が指摘されており、6歳の双生児における分離不安症の遺伝率は約73%という研究結果もあります。
また、女児は登校をしぶることが男児より多いとされますが、1人で家から離れることへの抵抗感や家族と離ればなれになったときに感じる苦痛の頻度は、女性よりも男性の方が高いという指摘もあります。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
きょうだいの中でも、なかなか母親から離れられない子どもがいたり、比較的早く精神的に自立する子どもがいたりと、さまざまなケースがありえます。
子どもが先天的・後天的に身につけた性格によって、母子分離不安の起こりやすさは変わってくるのです。
原因⑤離れることに関するトラウマ体験
トラウマ体験が原因で、母子分離不安を引き起こすこともあります。
例えば、親や療育者などと離ればなれになっているときに偶然災害が起き、子どもが「一緒にいなかったからこんな怖いことが起きたんだ」と解釈するような場合です。(参考:American Psychiatric Association・著、日本精神神経学会・監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』)
このような場合、子どもは親や療育者と離れることに大きな不安を感じるようになります。
母子分離不安と発達障害との関連
母子分離不安と発達障害の間に、明確な関係があるということは証明されていません。
しかし、発達障害のある子どもが母親と離れる場面に不安を感じる可能性は高いのではと推測されます。
広汎性発達障害のある子どもの多くに不安障害の併発が認められていることや、発達障害のある子どもの多くが、見通しがもてないことへの苦手さを抱えていることが理由です。(参考:川端康雄・元村直靖ほか「不安障害を有する広汎性発達障害児に対して認知行動療法が効果的であった2例」)
母子分離不安と不登校との関連
小学校低学年の不登校には、母子分離不安が関係するケースが多いことも指摘されています。(参考:赤坂徹・ 小原理枝子ほか「不登校例における医療・ 教育現場での連携の試み一小学校低学年生を呈示して考える一」)
私たちキズキ家学では、不登校を7つのタイプに分けており、その1つが、母子分離不安型(旧「分離不安型タイプ」)です。
母子分離不安型(旧「分離不安型タイプ」)の特徴
- 小学校低学年に多く、親や療育者から離れると強い不安が起こる
- 親や療育者の関心や愛情をたびたび確認し、つなぎとめようとする
- 親や療育者の膝に乗りスキンシップを求めてくる
- 親や療育者がそばにいると、友達と一緒に遊んだり元気に過ごすことができる
もちろん、不登校状態にある子どもが、必ず母子分離不安であるというわけではありません。しかし、親や療育者と離れることに強い不安を感じることで登校しづらくなる可能性はあると考えられます。
母子分離不安型の不登校については、以下のコラムで解説しています。ぜひご覧ください。
参考:キズキ家学「「母子分離不安型」(旧「分離不安型タイプ」)の特徴と留意点」)
母子分離不安の治し方・治療法
この章では、母子分離不安の治療法について解説します。
治し方①行動療法
行動療法は、行動に焦点を当てた心理療法で、不適切な行動を修正し、適切な行動を強化する治療方法のことです。
セラピストと子どもが共に問題行動を特定し、目標を設定した上で、段階的に行動を変えていきます。行動を変えていくことで、気持ちや考え方も良い方向に変えていく手法なのです。(参考:eヘルスネット「認知行動療法」))
この行動療法を母子分離不安の軽減に活用し、目標を子ども自身に宣言させたり、母親と離れて学校にいる時間を徐々に増やしたりします。
また、子ども自身や家族に対して、チームでアプローチすることも大切だとされており、医師、親、学校の教師が連携することもあります。また、家族療法を併用するケースもあります。
治し方②服薬療法
分離不安症の症状が深刻である場合には、不安を軽減する治療薬が使用されるケースもあります。
中でもSSRIと三環系薬は、以前から使われている代表的な分離不安症の治療薬です。どちらも心のモヤモヤを取り除く効果がありますが、体に及ぼす影響が少し違います。
SSRIは、脳内で神経伝達物質セロトニンの再取り込みを阻害し、セロトニンの働きを増強する治療薬です。セロトニンは、気分や感情を安定させる働きをするため、SSRIを飲むことで、抑うつ状態などが和らぎます。
三環系薬も、セロトニンの働きを助けますが、眠気や口の渇き、便秘などの副作用が出やすいのが特徴です。(参考:MSDマニュアル 家庭版「分離不安および人見知り」))
治療薬の種類や量、服用期間は、症状や体質に合わせて医師が判断するものです。
親としては「本当にこの薬は我が子に合っているのだろうか」と疑問に思うことも、もしかしたらあるかもしれません。
しかし、保護者の判断で服用を中止したり、量を変えたりせず、必ず医師の指示に従ってください。
母子分離不安で不登校状態にある子どもに対して親ができる対応
子どもが母子分離不安から不登校状態になった場合、親であるあなたも戸惑い、不安に駆られるかもしれません。しかし、親だからこそできることは、たくさんあります。
この章では、母子分離不安で不登校状態にある子どもに対して親ができる対応について解説します。
もちろん、親だからといってお子さんに関する悩みを全て抱え込む必要はありません。こちらで解説する相談先などを利用することが、悩み解決の近道になります。
対応①子どもの感情に寄り添う
母子分離不安があるお子さんの場合、学校に行くこと自体が大きなストレスになります。この不安を軽減するためには、まず親御さんがお子さんのの気持ちを理解し、受け入れることが必要です。
親御さんがお子さんの感情に寄り添うことで、お子さんは「自分の気持ちをわかってもらえている」と心強く感じるでしょう。その実感が、学校へ行く意欲や勇気を引き出す基盤になるのです。
具体的な方法としては、お子さんに不安な様子が見られたら、できるだけスキンシップをとるようにしましょう。
また、テレビや映画、本、運動など子どもの好きなことを一緒に体験して、交流を図るのも一つの方法です。
対応②子どもの話を聞いたり声掛けをしたりする
親御さんがお子さんのしっかりと話を聞くことで、お子さんが学校に対して抱えている不安を言葉にできるようになります。
そして、お子さんの不安を具体的に把握できれば、親として何をすべきかが見えてきます。
そのため、お子さんが不安について話してくれているときは、言葉を遮らずに耳を傾け「それは大変だったね」「話してくれてありがとう」と優しく声をかけましょう。
また、必要に応じて「一緒に考えよう」などの寄り添う言葉をかけると、お子さんは安心して感じている不安について話せるようになります。
親御さんがしっかり話を聞き、声掛けをすることで、お子さんは自分の気持ちを整理でき、「離れていても親は自分の味方だ」と実感しやすくなります。
対応③いきなり突き放さずに少しずつ距離を置く
母子分離不安の傾向があるお子さんにとって、いきなり親から離れることは大きな不安を伴います。
そのため、親御さんは、いきなり突き放さずにまずは短い時間から、少しずつお子さんと離れるようにしましょう。
例えば、短時間の留守番や近所の公園に少しの時間だけ友人と遊びに行くなどから始め、ステップアップしていくことが大切です。
慣れてきたら、学校の近くまで1人で行けるように促したり、短時間の登校から始めたりしてみましょう。
親御さんと一緒でないと登校できなくなっているお子さんにも、この方法は有効です。
また、登校を再開する際は、初日は校門まで送り、その翌日は校門の1ブロック手前でお子さんと別れるというように、少しずつ1人で歩く距離を伸ばしていく方法もオススメです。
お子さん自身が、「できないかも」「無理そう」などと、不安を感じない程度のステップを積み重ねていきましょう。
少しでも前進が見られたら、「1人でここまで歩けたね」と褒めることも忘れないでください。
成功体験によって子どもは自信をつけ、「お母さんがいなくても大丈夫」と安心できるようになります。
対応④周りの家族や学校などに協力を求める
母子分離不安のあるお子さんへの対応は、親御さんだけで行う必要はありません。ぜひ、周りの家族や学校などに相談してみましょう。
例えば、親御さんから離れて学校に行くのは難しくても、祖父母などの親戚と短時間過ごすことならできるかもしれません。
また、学校にお子さんの様子や家庭での様子を伝えることで、学校側も適切なサポート体制を整えることができます。
例えば、お子さんが不安を感じやすいことを共有して、その話題に触れないようにしてもらったり、家庭訪問の際は不安を増大させるような強い登校刺激は控えてもらったりするとよいでしょう。
お子さんの気持ちが登校に向いてきたら、行事や提出物、学習の進度などを学校に確認し、お子さんにその情報をそれとなく伝えていきましょう。そうすることで、お子さんも心の準備をすることができます。
このように、周りの家族や学校の先生など、身近な人に相談したり協力を求めたりすることで、より良い解決策を見つけられるはずです。
対応⑤専門家や支援機関に相談する
お子さんの不安が強く、親御さんから少しでも離れるのが難しい場合や登校できない期間が長引きそうな場合は、専門家や支援機関に相談することも有効です。
医師やカウンセラーなどのサポートを利用することで、親御さんだけでは対応が難しい問題でも解決の糸口が見つかるかもしれません。
また、自治体の相談機関などを利用すれば、子どもの将来を見据えた対応につながります。具体的な相談先は、こちらで解説しています。
対応⑥登校再開は子どもが安心できるかたちで行う
母子分離不安で不登校状態にあるお子さんが登校再開する際は、お子さんが安心できるかたちで、少しずつ進めることが大切です。
無理やり一気に学校に戻そうとすると、再び強い不安を感じ、逆効果になることがあります。そのため、お子さんのペースに合わせて、少しずつ登校を再開することが重要なのです。
例えば、最初は登校の際に親御さんが付き添い、学校の様子や活動を見学します。お子さんが学校の雰囲気に慣れてきたら、数時間だけ学校に滞在し、最終的には丸一日学校で過ごせるようにステップを踏むのです。
このように、少しずつ親御さんと離れることに慣れていくことで、子どもの抵抗感や不安を最小限に抑えながら、再登校につなげることができます。
友人や先生にもさりげなく話しかけてもらえるように相談したり、学習面でのサポートを依頼したりするなど、迎え入れる準備をお願いしておくとさらに良いでしょう。
なお、登校をし始めてすぐの頃は、お子さんがが不安やストレスを強く感じる可能性があります。
そのため、家庭内ではお子さんの感情に寄り添ったり、話をしっかりと聞いたりするなどして、お子さんが十分な休息と回復ができるように心がけてみてください。
母子分離不安に関する相談先
お子さんの母子分離不安に悩んでいる場合は、できるだけ早く相談先を見つけることが大切です。
この章では、母子分離不安に関する相談先を紹介します。
相談先①スクールカウンセラー
スクールカウンセラーは、児童生徒の心理的支援を行う専門家で、主に臨床心理士が務めています。(参考:文部科学省「スクールカウンセラーについて」)
主な役割は、以下のとおりです。
- 児童生徒・保護者・教職員への相談対応
- 教職員への助言
- 緊急時の心のケア
いじめや不登校などの問題に効果を上げており、学校の教育相談体制の重要な一員として位置づけられています。
子どもが小学生以上の場合は、在籍する学校でスクールカウンセラーの利用について相談してみると良いでしょう。
相談先②子ども家庭支援センター
子ども家庭支援センターは、地域の子育て支援の中核的な役割を担う施設です。(参考:こども家庭庁支援局虐待防止対策課「子ども家庭センターについて」)
主に自治体が設置しており、子どもとその家庭に関するあらゆる相談に応じる総合的な支援拠点として機能しています。
主に、以下のようなサービスを提供しています。
- 子育てに関する相談対応
- 子育て支援サービスの情報提供や利用援助
- 地域の子育てサークルや支援団体との連携
- 一時預かりや親子の交流スペースの提供
- 児童虐待の予防や早期発見、対応
また、必要に応じて児童相談所や保健所、医療機関などの専門機関と連携し、包括的な支援を行います。
母子分離不安のあるお子さんへの対応方法や不登校の相談も可能です。気になる人は、お住まいの地域の子ども家庭支援センターを調べてみてください。
相談先③児童相談所
児童相談所は、18歳未満の子どもに関するあらゆる問題について、専門的な相談、診断、指導を行う行政機関です。(参考:東京都福祉局「児童相談所とは」)
児童相談所では、児童福祉司、児童心理司、医師などの専門スタッフが連携して支援にあたります。
お子さんが親御さんから離れたがらない、登校をイヤがるなどの相談ももちろん可能で、助言指導や継続的な援助を受けられる場合があります。
相談先④小児科・児童精神科
母子分離不安の相談先としては、小児科や児童精神科などの医療機関も選択肢の一つです。
小児科では、子どもの身体的・精神的発達を総合的に診察します。基礎疾患や他の健康問題との関連性もみてもらえるので、身体面の症状で気がかりなことがある場合にはオススメです。
児童精神科では、より専門的な心理的アプローチが行われます。子どもの不安の根本原因を探ると共に、親へのカウンセリングも行うケースもあります。
小児科・児童精神科どちらも、必要に応じて学校や他の専門機関と連携し、子どもを取り巻く環境全体での支援をめざす場合が多いです。
相談先⑤母子分離不安に理解がある学習塾・家庭教師
母子分離不安に理解がある学習塾・家庭教師は、母子分離不安そのものについて相談をすることは難しい場合が多いです。
しかし、母子分離不安のために学校に通えない場合の学習の遅れや勉強の悩み、受験などの相談は可能です。
お子さんの状況に合わせた勉強のサポートを受けられるため、学習塾や家庭教師の利用も検討してみましょう。
特に、家庭教師であれば、親御さんと離れることなく自宅という安心できる環境で学習を進められるため、母子分離不安のあるお子さんにオススメです。
また、学習塾や家庭教師の利用を決める前には、体験授業や無料相談などを利用し、子どもの不安に寄り添ってくれるか、しっかりと見極めましょう。
わたしたちキズキでは、不登校状態にあるお子さんに寄り添い、サポートしています。個別指導塾キズキ共育塾と家庭教師キズキ家学があり、お子さんに合った学びのスタイルを選択できます。無料で相談できますので、気になる方はお問い合わせください。
母子分離不安に関するよくある質問
この章では、母子分離不安に関するよくある質問と、その質問への回答を紹介します。
Q1.子どもが母子分離不安で不登校になった際、突き放すのは効果がありますか?
お子さんががなかなか親御さんから離れたがらず、不登校の状態になっている場合、「思い切って突き放した方が登校できるのでは」と思いがちです。
しかし、お子さんの母親から離れることへの不安を無視したり、注意や叱責をしたりすることはオススメできません。
お子さんに幼さや甘えを感じたとしても、拒絶したり登校を強制したりせずに、お子さんの現状に合わせてお子さんの気持ちを満たすことが大切です。
例えば、ハグしたり手をつないだりといったスキンシップを増やしてみましょう。寝る前の読み聞かせなど、一度卒業したルーティンを復活させるのもオススメです。
子どもの表情や様子を見ながら、続けてみてください。
Q2.父親はどのように対応すればよいでしょうか?
お子さんが母子分離不安であると、親御さんの中でも特に母親が大きな負担を感じる場合が多いです。
母子分離不安は、いわば子どもの幼児退行現象であり、母親だけで受け止めるのは大変なことです。加えて、お子さんの様子を見て、母親が子育てに自信を失うこともあります。
そのため、父親は決して母親を責めることなく、お子さんのサポートはもちろん母親へのサポートを心がけましょう。
塩崎・無藤らの研究では、父親が「子どもにとっては母親が一番」という意識を持つことで、子育ての責任が母親に集中し、母親が子どもとの分離に不安を感じやすくなることが示されています。
特に、第1子の育児においては、父親の母子分離不安に対する意識が大きく影響することも分かっています。つまり、父親が母子分離不安を肯定的にとらえていると、母親もお子さんとの分離を受け入れやすくなるのです。(参考:塩崎尚美・無藤隆「幼児に対する母親の分離意識 構成要素と影響要因」)
父親の意識や行動は、お子さんの母子分離不安に大きな影響を与えると言えるでしょう。
また、きょうだいがいる場合、母子分離不安のあるお子さんは母親を独占しようとするかもしれません。そんなときは、父親がきょうだいと過ごし、母子分離不安のあるお子さんができるだけ母親との時間を取れるようにするのも一つの方法です。
なお、母子分離不安のある子どもは、父親に対して口をきかなかったり敵意のある言動を示したりすることもあります。
しかし、これは不安の現れであり、決して父親を嫌っているわけではありませんので、必要以上に落ち込む必要はありません。
まとめ~母子分離不安は克服できます~
お子さんが少しの時間離れるだけでも、不安そうな様子を見せたり泣いたりすると、親御さんは動揺するかもしれません。
しかし、母子分離不安はお子さんを取りまく環境や、お子さん自身の考え方を変えることで、症状が和らぐことがあります。
お子さんの感情に寄り添い、ときには思い切り甘えられる時間を取りながら、お子さんの母子分離不安と向き合ってみてください。
また、母子分離不安のあるお子さんへの対応は、家族だけ、母親だけで抱え込む必要はありません。
専門家や支援機関に相談することで、お子さんや親御さんの安心につながります。ぜひ、気軽に相談をしてみてください。
このコラムが、母子分離不安のあるお子さんについて悩むあなたの助けになれば幸いです。
Q&A よくある質問