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元ひきこもり芸人・なだぎ武氏インタビュー【前編】

元ひきこもりであるお笑い芸人・なだぎ武氏に、キズキがインタビューを行いました。キズキは、不登校・ひきこもり・中退などの挫折を経験した方々のための個別指導塾の運営などを行っています。

前編・後編の全2回でお届けします(なだぎ氏のご経験については、ご著書『サナギ』に詳しく書かれています)。

前編となる今回は、「いじめやひきこもりを乗り越えるために~周りの人との適度な距離感とは?~」です。

インタビュアー:キズキ 森本真輔(写真中央)、仁枝幹太(写真左)


心のなかで相手にツッコんで、いじめをやりすごした

森本:本日はよろしくお願いいたします。ご著書『サナギ』を読み、ぜひお話をお伺いしたいと思っておりました。

なだぎ氏:よろしくお願いします。

森本:ご著書によると、「不登校になる前のきっかけとして小・中時代のいじめがあった」ということですが。

なだぎ氏:そうですね、いじめられている中でいろんな我慢とか、無理していたところはありましたね。

いじめっていうのは絶対なくならないと思うんですよ。子どもだけじゃなくて大人になってもありますからね。

だから、「いじめをなくす」っていうよりも、「いじめが起こったときにどうするか」っていうのが一番大事なんですよね。

森本:ではご自身がいじめられていたとき、どう対処されましたか?

なだぎ氏:いじめられながらも、「心のなかで相手に対してツッコんでいた」みたいな感じでした。

反撃じゃないですけど、心の中のツッコミで救われることもあったんで、基本的にあんまり暗く受け止めていませんでしたね。

仁枝:「いじめる人って幼いなー」みたいな感じですか?

なだぎ氏:そうですね、はい。「自分がこの人たちより大人なんだな」と思わないとやっていけなかったんです。

「自分はいじめられてる被害者だ」という気持ちになってくると、どんどんどんどん、自分も卑屈になってくるし、「暗くなりすぎちゃあかんな」と、自分の中でどっかで思ってたんですよね。


近すぎない距離感だと、いじめの話もしやすい

仁枝:なだぎさんの場合はご自身で対処なさいましたけど、自分でどうにかするのは大変そうだなと思ったら、先生とか親とか、周りの人に相談して、サポートを求めてみてもいいと思います。

森本:当時を振り返ったときに、「もっとこういうサポートをしてほしかったな」と思うことはありますか?

例えば学校なのか、親・家庭なのか、もしくはまた別の場所なのか。

なだぎ氏:サポートですか……。まず、「いじめに気づいてほしい」っていうのはありましたね。

ただ、気づいてはほしいんですけど、
「大丈夫か?」
って言われると「大丈夫だ」って言うしかないですし、
「いじめられてないか?」
って言われると「いじめられてない」って言うしかないんですよね。

森本:「いじめられている」とは言いづらいでしょうね。

なだぎ氏:思春期の子どもには天邪鬼みたいなところもありますし、絶対に言えないですね。

だからそうではなくて、日常会話の中で、こっちがプレッシャーにならないような言葉……
「なんやお前眠たそうな顔してんな」
とかの言葉で声をかけてくれたら答えやすいですし、道が開けていくと思いますね。

例えば、1人の子どもがちょっと顔にあざができていたとき、「あれ、これいじめちゃうかな?」と思ったら、
「なんやお前顔色悪いな。飯食うてんのか?」
みたいに話しかけるとか。

同じ目線になって日常会話のなかから言葉をもらえると、それに対しては答えられるんですよ。

そういうことがずっと続くと、
「あれっ!この人、ずっとなんか俺を目にかけてくれてんな……。もしかしたらこの人に相談したら大丈夫なのかも」
ってこっちも意識するんですよね。

森本:ご著書の中だと、友人の松村さんと「Hくん」がほどよい距離感を保っていましたね。

なだぎ氏:はい(笑)。今思えば、僕に対する彼らの距離の詰め方が絶妙だったというのはありましたね。

こっちがどんどんすり寄りたくなるような距離の近づけ方をしてくれると、いじめの話も言いやすいと思います。


親はどっしり構えて、見守ってほしい

森本:いじめがあった中学を卒業してから、家にひきこもられたんですよね。

仁枝:ひきこもられてから、親御さんとの距離感はいかがでしたか?

ご著書を読ませていただいている中では、ご両親となだぎさんとの関係はとてもよかった印象を受けます。

なだぎ氏:本当どうしようもない息子だったんですけど、親から距離を詰めて来ず、「いつか自分から行動するだろう」と思ってくれていたのが、僕にとっては心地よかったですね。

それに部屋という居場所をつくってくれてたのもありがたかったですね。

いい意味での放置をしてくれたというかね。

森本:ひきこもっているキズキの生徒さんなんかでも、復帰が早いケースは保護者さまが結構ドンと構えていることが多いです。

「○○ちゃん大丈夫なの!?」となっちゃう方が大変だったりします。

なだぎ氏:「大丈夫なの!?」という対応だと、子どもの方には「親に構ってもらえる」という甘えがどんどん出てくるんじゃないでしょうか。

すると、甘えっぱなしでいられるように親を突っぱね出すんですよ。

本当は自分がひきこもっていて弱い立場だとわかっているからこそ、親に対して強く言わないと自分の優位性を保てないという恐怖感がどっかにあるんで。

でも逆に、とことん突き放す対応もよくないですよね。

例えば、親御さんが本気で「もう出ていけ」と言うと、子どもにしたら、
「自分の居場所がなくなったのに、働きもできないしお金もないし住むとこあらへん」
ってなりますし。

仁枝:お子さんが不登校とかひきこもりになったときに何を言っても反抗されるということで、保護者さまが接し方についてキズキに相談にいらっしゃることはよくあります。

なだぎ氏:僕の場合、母親はちょこちょこ声をかけてくるんですけど、それに対しては突っぱねてとか、何も答えずに無視してとかしていました。

親父はその状況を母親から聞いていると思うんですけど、母親以上に何も口出ししてきませんでしたね。

そして僕は、
「親父が本当に怒ったら怖いな」
「父親という黒幕が本当に動いたときはいろいろ自分はやばいだろうな」
とどっかでわかっていたので(笑)、
「そうなる前に将来のことをいろいろ考えなあかんな」みたいなのは思ってましたね。

なので、「いい意味の放置」があって、「いつもは優しいけど、本当に怒ったら怖い人」が家にいると、子どももいろいろ考えるかもしれませんね。

それでも僕は、18歳くらいのときに「このままではあかんな」と思ってから実際にひきこもりを脱出するまで、3年くらいかかりましたけどね。

森本:学校の先生であっても保護者さまであっても、近すぎず遠すぎず、適度な距離感があると相談しやすいですよね。

仁枝:お子さんにとっては、安心できる家があることが大切ですね。

お子さまの将来を心配しての保護者さまの行動でも、怒る、叱る、あるいは変に気を遣う、といった行為で関係がギクシャクすることがあります。

悲観的になりすぎず、どっしりと構えると、保護者さまもお子さんも楽になると思います。


義務教育までは学校に行くと決めていた

森本:なだぎさんは、中学を卒業したときに「いじめを我慢してきた」という「がんばりすぎ」の糸が切れて家にこもられたのかなと想像していましたが、いががですか?

なだぎ氏:それはちょっとあるかもしれないです。

義務教育っていうのは、「とにかく行かなきゃいけないもの」に近いじゃないですか。

だからまあ、「義務教育までは学校に通おう」と思ったんですね。

あと、「僕は高校には行かないだろうな」っていうのは中学3年ぐらいになって薄々わかっていたのもあり、「そのぶん、いじめられていても、中学には行っとった方がいいな」と。

だけど、義務教育が終わったら、「行かなきゃいけないところを卒業したんだから、がんばるスイッチを一回切ろう」と思って。

森本:我々の生徒さんでの話を聞いていると、やっぱり、親の期待とか、学校の先生の期待とか、友人の期待とかに応えすぎちゃって、ぷつんと切れるケースがあります。

なだぎ氏:僕にも、中学卒業後に「親のために」と思ってでちょっと無理して働いたことがあったんですけど、やっぱりそのスイッチもすぐに切れましたね。

それで、完全にスイッチがオフになって、部屋にひきこもるようになりました。


人生の主役は自分。逃げたかったら逃げていい

森本:キズキ共育塾では、学校でいじめられている生徒さんに対しては、「逃げちゃえばいいじゃん」という提案をするようなこともあります。

なだぎさんは、いじめに立ち向かって、我慢しつつもうまく受け流す、という「がんばる」行動でいじめを乗り越えられています。

でももしかしたら、「学校に行かない」などといった「逃げる」行動をとることで、より早く、もう少し居心地のよい環境に移動できたかも…とも思ってしまいました。

当時、「逃げる」という選択肢はありませんでしたか?

なだぎ氏:僕も逃げたいと思ったら逃げてたと思います。

無理することもないし、「自分が楽になるんやったら逃げればいいんじゃない」と思う方なんで。

でも当時は心のどこかに「学校に行きたい」っていう気持ちがあったので、学校に通い続けたんです。

あと、さっきも言いましたけど、「義務教育はとにかく行くものだ」と思っていたこと。

そして高校に進学しないので「義務教育が終われば『僕の人生における学生生活』は全て終わるな」と覚悟していたこと。

そんな気持ちが混ざり合って、「残り少ない学生生活からは逃げまい」と思っていました。

だけど、それは「僕の場合」の話ですね。

無理はたたってくるので、逃げたかったら逃げたらいいし、それがカッコ悪いことだとも思わないです。

自分の人生で、自分が主役なんですから、「逃げたら終わりだ」みたいに焦らなくてもいいんですよ。

あ、中学3年の卒業式のときに、僕一人だけめっちゃ泣いていたんです。ハッハッハ。

他のみんなは高校に進学して学生生活が続くけど、僕は学生生活が終わりだったので、感極まって(笑)。


ご自身の経験から、いじめやひきこもりを乗り越える方法について語っていただきました。

さて、後編のタイトルは、「プロフェッショナルインタビュー~自分を表現するということ~」です。

なぜコントやお芝居を通して表現するのか、ひきこもられた経験がどのように活きているのかについてお伝えし、いま苦しんでいる方へのメッセージをお届けします。


2018年6月22日掲載。
取材日時:2017年12月22日 15時〜16時
取材場所:ルミネtheよしもと


なだぎ武氏 プロフィール
なだぎ武(ナダギ タケシ)。
お笑いタレント。1970年10月9日生まれ、大阪府堺市出身。A型。1989年にNSC大阪8期生として入学。
外国人キャラクターを演じるピン芸人としてブレイク。ピン芸人の日本一を決めるお笑いコンテスト『R-1ぐらんぷり』で、2年連続優勝という快挙を成し遂げる。
宮本亜門演出のミュージカルにも出演するなど、活動の幅を広げている。

キズキとは
株式会社キズキとNPO法人キズキからなるキズキグループは、不登校・中退・ひきこもりなどの困難を抱える方のための個別指導塾である「キズキ共育塾」の運営を始め、様々なアプローチで困難を抱える方々の支援事業を行っている。

元ひきこもりお笑いタレント なだぎ武氏インタビュー