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元ひきこもり芸人・なだぎ武氏インタビュー【後編】

元ひきこもりであるお笑い芸人・なだぎ武氏に、キズキがインタビューを行いました。キズキは、不登校・ひきこもり・中退などの挫折を経験した方々のための個別指導塾の運営などを行っています。

前編・後編の全2回でお届けします(なだぎ氏のご経験については、ご著書『サナギ』に詳しく書かれています)。

後編となる今回は、「プロフェッショナルインタビュー~自分を表現するということ~」です。

インタビュアー:キズキ 森本真輔(写真左)、仁枝幹太


コントなら、過去にとらわれず自分を1からつくれる

森本:なだぎさんは、現在舞台俳優としても活躍されています。

お笑いから俳優に活躍の場を広げていることについて、ご自身のひきこもり経験が影響している部分はありますか?

なだぎ氏:ひきこもり経験が影響しているのか、僕は、ノンフィクションとしての自分にまったく興味がないんですよ。

でも、フィクションの世界ならもう一人の自分を1からつくれる。

だからフィクションの世界にすごく憧れたんです。

「表現者」として、フィクションの世界をつくり上げる、過去のことを知られずに自分をまた1からスタートできるということに対しての憧れがずっとあったんです。

それでひきこもり当時もフィクションであるドラマや映画を好きだったんだと思います。

『サナギ』にも書きましたけど、とにかくテレビっ子でドラマも映画も好きだったし、テレビばっかり見ていました。

フィクションの世界に興味があったので、NSC(吉本興業株式会社によるタレント養成所「ニュー・スター・クリエイション」)に入ってお笑いと向き合おうって思って、コントとかをやりだしたんです。

コントもフィクションじゃないですか。

「表現者」としてコントを演じて、「なだぎ武」っていう個人を、ノンフィクションを出さずに、自分を面白いと思ってもらえる環境なわけですよ。

そういう「お笑いの環境」が自分には合っていたんです。

だけど、今のバラエティ番組の作り方はフィクションとは真逆になっちゃってて、とにかく「お前の昔の面白いエピソード出せ、素の自分を出せ」って言われるんですよね。

ひきこもっていた僕には、面白いエピソードは少ないんです。

また、昔、友近さんとコントをやってたときに、僕はコントのキャラとしてディランを演じたいんだけど、二人でテレビに出ると、僕らの私生活とかお付き合いに関することとかを聞かれるじゃないですか。【編注:テレビドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」の登場人物をイメージしたコント。当時なだぎ氏と交際していた友近氏が共演していた】

でも僕はディランの恰好をしている「表現者」として、そういうことをあまり答えたくない。

で、友近さんは「そんなこと言っててもしょうがないから、バラエティとしては素の自分を出せばいいんだよ」と言うわけです。

まあ今思えば友近さんの言うとおりなんですけど、当時はバラエティの流れについていけなかったんです。

僕は「表現者」として演じることが好きだし、キャラの仮面を被ったときには、徹底して演じたいというのはありますね。

テレビに出ている人を一言で「芸人」とくくったら、そんなに違いはないように思えるんですけど、「役者」と「素の自分をさらけ出す最近のバラエティの人」っていうことを分けるなら、やっぱり僕は「役者」気質のほうなのかなっていうのは思います。

僕は演じることが好きなのに、最近はテレビに「演じる環境」がどんどんなくなってきた。

そんなときに舞台のお仕事とかをいただいて、お芝居を始めたんです。

自分のテレビでの居場所に悩んでいるタイミングでお芝居の仕事に移っていけたっていうのは、いい波に乗れたと思います。

森本:コントで演じていたキャラクターの背景にこんな哲学があったなんて、驚きました。コントでキャラをつくっている理由がわかった気がします。

仁枝:ひきこもりの経験があるからこそ、なだぎさんのお笑いに対する考え方は一貫しているように思います。

なだぎ氏:昔いじめられていたときも、それをぶち破る力がほしいという思いは常にありました。

でも実際にぶち破る力はないので、心のなかでもう1人の「表現者」を作って、相手に対して
「いいキレしとんな、東映の人間がみてたら仮面ライダーのオーディションのスカウト来てるで(笑)」
みたいなことを思って、それで発散していました。


社会復帰はまだ…?やっと見つけた居場所と向き合いたい

仁枝:ひきこもり期間を経て社会復帰していく過程のなかで、本当の意味でなだぎさん自身が変われたなとか、社会復帰できたなと思えたのはいつ頃でしたか?

なだぎ氏:お笑いというか芸能界というか、いわゆる「普通の社会」とは違う環境で今までを生きてきたので、変な話、いまだに社会復帰できていると思っていないんですよ(笑)。

僕の周りの環境に、社会不適合者が多いというのもあるし。

だから僕も心のどこかで「自分は社会不適合者だ」と思っています。

サラリーマンの人とかを見ると、「うわーすごいな、僕はできないな」と思っちゃう。

だからもう、僕にはこの「演じる」っていう世界しかないし、ないからこそ絶対にやらないといけない。

この自分の居場所に対してはちゃんと向き合わないといけないっていうのは思いますね。

森本:「社会復帰していない」と思うからこそがんばれると思える部分もあるということですね。

仁枝:あんまりこういう言い方はよくないのかもしれないですけど、高校行って大学行って社会人になってというようなメインストリームから外れたからこそ、この世界でがんばっていこうという努力につながっている気がします。

なだぎ氏:そうですね。知識のあるええところの大学出た人間が芸人やってますというのがどんどん普通になってきてる時代ではあるんですけどね。

「今の時代、やりたいことをやれ」
「大学も行って、芸人やって、例えばそれがだめでも、やり直せるだろうから」
っていう構え方なのかな。

森本:この前「女芸人No.1決定戦 THE W」で優勝したゆりやんレトリィバァさんも大学を卒業していますね。

なだぎ氏:そうですね。ゆりやんレトリィバァもアメリカとか言って、英語もペラペラやし。

ただゆりやんレトリィバァはね、大学は出ているけれど、芸から人となりが伝わってくるというか、「この世界の人間だな」と思います(笑)。

「あっコイツ、こんなこと考えて生きてきたんやな」というのはもう、全部芸に出てるんですよ。


輪の外側で人を観察した経験が、芸になる

森本:芸から人となりがわかるということですが、なだぎさん自身で自分の芸を分析したとき、いじめを受けたり、ひきこもられた経験が芸に反映されていると思う部分はありますか?

なだぎ氏:あるあるある。

僕は、輪の中に入らず、外側で人を見ているのが楽しいって思う方の人間だったんです。

そういうやつの方がね、人を見ているんですよ。
「アイツがこのときにこんなことを言いよった」とか、
「アイツこんな動きしてる」とかね。

逆にその輪の中に入って、ワーってやってるやつはあんまり周りが見えてないんですよね。

僕は「そういう人」の揚げ足をとったことを芸にしているので、だから見ている人も笑えると思うんですね。

「あっ、こういうやつおるおる」とか、
「腹立つなー、このこいつのキャラ腹立つなー」とか、
そんなことがどこか日常的に感じられるからこそ、笑えるんでしょう。

で、いじめられているときもそんな観察は続けていましたので、それは芸に生きていると思います。

森本:小・中時代から、「あっ、自分ちょっとこういうところに気づく癖があるな」という意識はありましたか?

なだぎ氏:自分で意識しているわけじゃないですけど、そういうところに目がいきましたね。

中川家の礼二もですし、友近さんもですし、やっぱりお笑いの世界の人間って「あっ、ここ気になるよな」っていうところを見てるんですよ。

だからお笑いの世界に来るんだろうなっていうのは思いますね。

「そこいじってやろう」とか、
「こいつのこういうとこ嫌やなあ。これ人に言いたいよなあ」とか、
そういうことに無意識に目が行く人が、たぶん芸人になって、ネタにして、お笑いに昇華しているみたいなところはあると思います。

そう考えるとやっぱり芸人はみんな、社会不適合じゃないですかね(笑)。

森本:いじめを受けていた当時に周囲と関わる中で培ったものが、今に活きている部分もありますね。

なだぎ氏:そうですね、今この世界で大いに活かさせていただいているものがありますね。


東京での挫折がきっかけで、考え方が変わった

森本:逆に、芸能の世界に入って以降、それまでのやり方ではうまくいかなかったことや、そこから新たに身につけたことはありますか?

なだぎ氏:さっきも少し言いましたが、テレビに対しての考え方とか、人間性とか、自分の性格的な問題ですね。

僕は「表現者」としてコントをやっていきたいんですよ。

で、東京に出るまでずっと大阪でコントをやっていて、「コント」という表現だけでやってこれたという実績や自負もまあありました。

でも東京のテレビでは「お前ら付き合ってんねんから、どんな感じで付き合ってるのかちょっと言えや」って求めるし、それに面白おかしく答えないとダメなんやろなっていうのも勉強したし、そのキャパシティを持ってないとテレビでは受けないんだな、ってのも勉強になりました。

やっぱり、大阪とはやり方が全然違うんだなって気づきましたよ。

だから、いくら大阪でお笑いをやって、二十何年芸歴を積んでても、やっぱりその「積み木」は東京に来たときに全部崩されるんやなっていうのは思いましたね。

大阪で積み上げてきた「積み木」を東京の人の前でもドンと提示すれば、東京の人も「すごい!」と思ってくれると思ってたもんで。

でもやっぱりゼロから見てもらうには、その「積み木」をまた1から積み上げるということをしないといけないんやなと。

例えば友近さんと一緒にテレビに出るときは、コントだけじゃなくて「こんなことやりながら付き合ってるんです」みたいなことを普通に言えないとダメなんだなっていうのはショックでした。

そういう経験によって自分もなんかチャンネルが切り替わったし、性格もまた変わってきたというのはあります。

人の意見を素直に聞くようになったし、人に対して腹が立たなくなってきたんです。

本当に怒ることが少なくなってきたんですよ。

このまま50歳くらいにまでなると、お坊さんみたいになってるんちゃうかなと(笑)。

これがまた、今のバラエティではネックなんです。

今のバラエティって「なんか最近怒ったことない?」ってことをめっちゃ聞かれるじゃないですか。

で、「最近こんな腹立ったことありましてー」みたいなことを言うのがいわゆる「面白い」バラエティになってきてますよね。

僕がどんどん怒らなくなってきてるタイミングなので、今のバラエティとのギャップがね、僕的には悩みだったんです。

だから、そういうバラエティにあまり出なくて、役者の仕事が増えている、というのは、流れ的に「なるべくしてなってる」のかなと思いますね。

だけど、「バラエティはもう一切出たくない」ということではなく、逆に、オファーをいただいたら「今度はちゃんと番組のノリに乗っかれるようなものを揃えていかないと」という覚悟が今はできるようになりました。

そういうことに正面切って向き合えるようになったのは変化だなと思います。


どんな形でもいい、自分の好きなことを発信してみよう

仁枝:不登校やひきこもりなどでいま苦しんでいる本人に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

なだぎ氏:やっぱり今SNSがこれだけ盛んになって、インターネットの時代になってきちゃってて、部屋にいながらも、パソコンやスマホ1つで何でもできるじゃないですか。

情報も共有できるし、買い物もできるし、自分が考えたコンセプトで起業することもできるし。

だから、自分が「表現者」として何かをやる分には、インターネットがあればひきこもっててもいいと思うんですよね。

表現者は、自分の人生の中で「自分というもの」が自分の外に出ているかっていうことが重要で、ひきこもっててもいいし、方法や手段は何でもいい。

例えば、先日LINE LIVE【編注:LINE株式会社が運営するライブ配信サービス】のイベントがあって、僕がMCをやらせていただいたんです。

その出演者に、ひきこもりを経験したことのある女の子がおったんですよ。

その子は、友達に「自分の気晴らしに好きなことを発信してみれば」と言われたのがきっかけで、LINE LIVEを始めたらしいんです。

LINE LIVEを始めて、それを見てくれてる人がおって、コメントをもらえて、コメントに答えていって。

それでコミュニケーション能力がゼロだったその子が、どんどん人とコミュニケーション取るようになって。

その子は16歳で、同年代の子らと会話しながら、かわいいものを身に付けるようになったり服を買うようになったりとかして、結局、タレントになったんですよ。

「あっ、今はこういうツールがあるんやな」と驚きました。

だから、今ひきこもってる人に「無理してでも外出しろ」とは言わないけど、インターネットやSNSなどをうまく使うといいんじゃないかなと思います。

ひきこもっていたとしても、好きなこともあるだろうし、趣味もあるだろうし、そうでなくても、なんか気になることもあると思うので。

「ここに、この時代に、自分が生きた」という証を何かまき散らしてみるといい。

人は意味があるから生まれてきているんであって、やっぱり、「あきらめるのはもったいないな」っていうのは思いますね。

例えば、何か1つのものにすごく博学な人間の話を聞いてるのはおもしろいんです。

「お前そんなこと、そんなことまでよう調べたな」とか、
「えっ、そんななんか、例えばこういう飯をつくるにあたってそこまで調べてるんや」とか、
「そんなんを調べることに時間を費やしたんや。なんやおもろ」っていうね。

無駄なことってないと思うんですよ。

その無駄じゃないことに費やした時間を、もっと人に教えるとか、形のあることで表現してみたらいいかもしれないですね。誰かが興味を持ってくれることもあるんで。

僕がひきこもって、いろいろな本や音楽に向き合っていた3年間って、一般的には無駄な時間だなってやっぱり思われるんですよ。

同年代の子は恋愛とか勉強とかして青春を謳歌しているのに、僕はずっと場所の変わらへん部屋にいて。

でも、本や音楽に感情を揺さぶられたことって今の自分の財産になってるので、今思えば無駄じゃなかった。

一般的には「何もしてない部屋にひきこもって何してんねん」っていう人でも、
「ちっちゃいときに何が好きだった?」とか、
「今どんなことに興味あるん?」とか、
どんどん掘り下げていくと、何か原石があるかもしれないんですよ。

その原石って他人が磨いてくれるときもあるし、自分で磨きだすこともあるけれども、何かのきっかけで人は変われる。

だから、ひきこもっていても、どういう形でもいいから、自分というものを発信してみたらいいと思います。

仁枝:なだぎさんのサナギ期間のときに、見たり聞いたりしたものが今の芸にも活きているのを今日伺って改めて思いました。全てが今につながっているんですね。

森本:本日はありがとうございました。


以上、元ひきこもりお笑いタレント・なだぎ武氏へのインタビューでした。

ご自身の経験から語られる言葉は、興味深い示唆に富んだものでした。

「近すぎず遠すぎない距離感だと、話しやすい」
「親はどっしり構えて、見守ってほしい」
「何かのきっかけで人は変わることができる」など、
キズキの理念や事業に共通することも多くおっしゃっていたのが印象的でした。

お話を伺えて、非常にうれしく思います。


2018年6月29日掲載。
取材日時:2017年12月22日 15時〜16時
取材場所:ルミネtheよしもと


なだぎ武氏 プロフィール
なだぎ武(ナダギ タケシ)。
お笑いタレント。1970年10月9日生まれ、大阪府堺市出身。A型。1989年にNSC大阪8期生として入学。
外国人キャラクターを演じるピン芸人としてブレイク。ピン芸人の日本一を決めるお笑いコンテスト『R-1ぐらんぷり』で、2年連続優勝という快挙を成し遂げる。
宮本亜門演出のミュージカルにも出演するなど、活動の幅を広げている。

キズキとは
株式会社キズキとNPO法人キズキからなるキズキグループは、不登校・中退・ひきこもりなどの困難を抱える方のための個別指導塾である「キズキ共育塾」の運営を始め、様々なアプローチで困難を抱える方々の支援事業を行っています。

元ひきこもりお笑いタレント なだぎ武氏インタビュー