元ひきこもり芸人 山田ルイ53世氏インタビュー【第4回】
ひぐち君のやりたいことに付き合って、その後やり方を変えさせる
安田:逆に、ひぐち君さんには、「山田さんと続けていこう」という理由はあるんでしょうか。
山田氏:やっぱ、メシが食えるようになったからじゃないですか。ハッハッハ!
ひぐち君は、結構プライドが高いんですよ。大人しい、人畜無害みたいに思われているみたいですけど、全然違います。コンビを組み始めのときは、ひぐち君が書くネタじゃないとイヤだとか、ひぐち君がボケじゃないとイヤだとか、そんな感じでした。
当時ひぐち君が書いていたネタは全然面白くないんですけど、僕は「続けることが大事だ」と思っているから、「我慢しよう」と、ひぐち君のやりたいように付き合いました。ひぐち君が書いたネタで、ひぐち君がオーディションに行くんですが、全部落ちるんですよ。落ちたら「わかったやろ?だから、ネタはオレが考える」と。
で、ネタづくりを僕がやることを了承しても、今度はボケ・ツッコミの役割に関して譲らない。なので、「わかったわかった。ネタはオレが書いてくるから、その中で、自分のしたいようにせえ」と。で、ひぐち君がボケでオーディションに行って、また全部落ちるんです。「あかんかったやろ、じゃあこうさせてくれ」と。
「貴族」になるときも一番反対したのはひぐち君でした。「イヤや」と。何がイヤかよくよく聞いたら、「衣装代がかかるのがイヤだ」としょうもない。
最終的には付き合ってくれるんですが、こういうことをずっと繰り返しました。この作業がなかったら、売れるのは3年早かったと思います。もう全部付き合いました。大変でしたよ。
安田:ひきこもり支援でも、そういうことって、大事だと思うんですよね。支援者が言葉だけで説明しても伝わらず、本人が実際にいろんな経験する中で気づいていくこともあります。(ひきこもりはひぐち君さんではなくて山田さんですが)
進学指導の場合は、「現状の学力や勉強方法」と「理想とする目標」の差が大きすぎる場合に、その差を実感してもらうために模試を受けてもらったりします。
山田氏:その過程を経ないと納得して動かない人はいますからね。大事だと思います。
ひきこもり当時は、会いに来てくれた友だちが点数稼ぎに見えた
安田:芸人さんを目指す、始める以前の段階で、ひぐち君さんのような友だちがいたらよかったかなとか、逆にそのときは受け入れられなかったかなとかありますか。
山田氏:お伝えしたとおり、中学校に友だちはいました。実家でガッツリ引きこもってるときには、先生や友だちは心配して家に来てくれました。
でも、自分があまりにも惨めで…自分のことを一番卑下していたのは自分なんですけど、彼らに対して「どうせ憐れみに来たんやろ」、「オレと接することで点数稼ぎに来てるんや」と思ってしまう部分はありましたね。自分でも屈折してるなと思います。
いま苦しんでいる方へのメッセージ
自分と他人を比較しても、得しない
安田:不登校やひきこもりなどでいま苦しんでいる本人に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
山田氏:ひきこもっていると、いろいろ考えると思うんです。「学校に行けていない」とか、「将来が潰れたな」とか、僕みたいに「人生がすごく余ったな」とか。
それくらいならいいかもしれませんが、「よその誰それさんと比べてオレはすごく遅れてる」とか、テレビ、ラジオ、ネットで見た情報で「うわ、オレは遅れてる、ダメだ」と思い込んだりとか、そういう、比較の中で自分をおとしめていくというのは、全く誰も得しないんですよ。
もっと言えば、あなたが自分を下げることによって、周りはちょっと得をする、優越感を抱くんですよ。他者を利するようなことをわざわざ自分でしなくていい。「それは損してるで」と言いたいですね。
逆に言えば、「学校という、他人と比較される環境から1回外れることができた」くらいに思った方がいいかもしれませんね。
たいていのことはリカバリーできます
山田氏:こういうインタビューのときには、「多少は自分をあきらめてあげないとダメだ」と言っています。これは大きいですよ。自分のことを何でもかんでもできるスーパーマンだと思っていると、本当に不幸しかないと思います。一度ダメだった目標からズラしたところで勝負するのは、逃げじゃなくて戦略ですよ。
あと、たいていのことはリカバリーできますというのは言っておきたいですね。あなたが望むリカバリーかは知らんけど(笑)、生きていくことに関して、今の状況よりも楽になることはできますよ。
安田:ありがとうございました。
以上、髭男爵・山田ルイ53世氏へのインタビューでした。
ご自身の経験から語られる言葉は、率直で示唆に富んだものでした。
「急に追い立てても事態は好転しない」「家族揃って追い詰められる必要はない」「勝負する世界をずらすのは戦略」「たいていのことはリカバリーできる」「でも、ひきこもりや不登校にはリスクもある」など、キズキの理念や事業に共通することも多くおっしゃっていたのが印象的でした。お話を伺えて、非常にうれしく思います。
あなたも、かつての山田氏のような困難を抱える方の支援のため、キズキで働いてみませんか?
取材日時:2016年10月19日 16時〜17時
取材場所:株式会社サンミュージックプロダクション会議室
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