ASDで仕事が続かない人必見!ASDの人ができる仕事の工夫と適性 | キズキビジネスカレッジ  

ASDで仕事が続かない人必見!ASDの人ができる仕事の工夫と適性

こんにちは、キズキビジネスカレッジ(KBC)の寺田淳平です。

2013年にアメリカ精神医学会が『DSM-5』においてASDの診断基準を定めて以来、「大人のASD」が注目を集めています。

この記事を開いているあなたも、ASDが原因で仕事が続かなかったり、今の職種が向いているかわからなかったりと、お悩みを抱えているのではないでしょうか?

そこで今回は、ASDのある人の仕事の向き不向きから有効な仕事術までを、徹底解説します。

ASDの特性を理解した上で適切な対策を取れば、充実した社会生活を送ることはもちろん可能です。

実際に3,500人規模の職場で人事を担当していた私の視点から就労上の注意点も詳述しますので、ASDでお悩みであれば、ぜひ目を通してみてください。

※特に「ASDと向いてる仕事」の話は、下記コラムで詳細に書いています。よければご覧ください。

事例で見るASDの人の仕事上の強みと弱み

ASDの人が仕事をする上で大切なのは、強みと弱みを理解して業務を行うことです。

この章では、強みと弱みを4つに分けた上で、それらが具体的な仕事の状況でどのように表れるかを事例とともに見ていきましょう。(参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』、本田秀夫『自閉症スペクトラム』、厚生労働省「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」)

ASDの人の4つの強み

ASDの人の4つの強み

ASDの人が仕事を進める際に強みにできる特性の例として、次の4つが考えられます(人によって異なります)。

ASDの強み
  1. 特定領域の記憶力に長けている
  2. 関心分野に高い集中力を発揮できる
  3. 規則に従順で規範意識が強い
  4. 論理的な思考が得意

補足として、1や2の記憶力や集中力の高さについては、その人の関心のある分野によって変わるため、どの分野に興味を持っているのかを見極めることが大切です。

3の規範意識の強さは、「ルールへのこだわり」とも言えます。規定や法令の順守が大切になってくる仕事で強みになります。

4の論理的思考が得意という強みは、どんな仕事にも応用が利く基礎的な力です。しかし、あまり突き詰めすぎると、会話をしている相手を追い詰めることもありうるため、注意が必要でしょう。

ASDの強みを活かした事例

ASDの強みが活きるのは、自分の関心分野への「こだわり」が役立つときです。

例えば「言葉や文字へのこだわり」があるASDの人が文章のチェックや校閲の仕事をしたところ、確認に漏れがないため重宝されたという事例があるようです。

また、法令といった公的なルールに強い「こだわり」を持つ人が法務部門に就くと、厳密さを重視する特徴もあいまって、他人の意見に惑わされずにきっちりと仕事を行う安定感のある人になれることがあります。

「こだわり」の強さを活かすことができれば、仕事での活躍の機会が増えるということを覚えておくとよいでしょう。

ASDの人の5つの弱み

ASDの人の5つの弱み

ASDの人が仕事をする上での弱みとなる特性には、以下の5つが考えられます(こちらも、人によって異なります)。

ASDの弱み
  1. 会話や、報告・連絡・相談がうまくできない
  2. 話されている内容や暗黙の了解を理解しづらい
  3. 人の話を聞いていないと誤解されやすい
  4. 自分の体調や状態を把握しづらい
  5. 感覚過敏でストレスを感じやすい

1から3までは、対人コミュニケーションにおける障害です。

中でも「報告、連絡、相談がうまくできない」というのは、どの業務にも響いてくる大きな弱みとして挙げられることが多いです。

4の自分の体調を把握しづらいという弱みも、ASDの人が抱える困難としては代表的なものです。

周囲に適応しようと頑張りすぎて熱が出ていることに気づかず出勤したり、極度に疲れがたまっているのに気が付かず仕事をして倒れたり、といったケースが挙げられます。

5の感覚過敏については、ASDの人は感覚器官へのストレスが続くと安心感を得るために身体を前後にゆするなどの常同行動をすることが多いといわれています。こうした常同行為は周囲も気づきやすいため、助けを求めやすい部分かもしれません。

ASDの弱みが出た事例

「会話や、報告・連絡・相談がうまくできない」と関連して、ASDの人の弱みが出る事例によく挙がるのが、「目上の人にも友達のように話しかける」というケースです。

仕事の現場では、顧客・業者、上司、先輩社員など、様々な上下関係があります。

しかし、ASDの人はそうした人間関係・上下関係を意識することが苦手です。また、「社会における一般常識」や「暗黙の了解」も意識しにくいと言われています。

そのため、悪気なく失礼にあたる態度や言葉遣いをして怒られてしまう、場に適さない発言をして周囲から叱責を受けるといったことが往々にして起こりえますすが、ASDの人はそもそも「なぜだめなのか」、「何が失礼なのか」を無意識に理解することができないのです。

そのため、なぜ怒られているのかがわからず平然としている、結果として余計に関係を悪化させるといったケースがよく見られます。

また、話の流れを無視して自分の意見を言ったり自慢話をしたりするなど、やはりコミュニケーションにおける弱みが出る事例が多いでしょう。

ASDの人に向いている仕事

ASDの人に向いている仕事

これまでに紹介してきたASDの特性などを踏まえると、ASDの人には、以下のような仕事が向いていると考えられます。

ASDの人に向いてる仕事の例
  • 経理事務
  • 会計士
  • 法務
  • 専門事務
  • 設備点検
  • トラック運転手
  • プログラマー
  • ソフトウェアなどのテスター
  • デバッガー
  • ゲームクリエーター
  • 校正・校閲
  • テクニカルライター(専門的な技術に関する文章を書くライター)
  • 研究者
  • 数学者
  • 設計技術者
  • 工学系デザイナー
  • CADオペレーター
  • フリーランスのデザイナーやライター
  • アニメーター
  • カメラマン
  • 駅員
  • 動物の調教師
  • その他、ルーティンワーク(定型的な業務)が可能な仕事(ライン作業、軽作業、清掃員など)

上記は、定型作業が中心で淡々と仕事を進めやすい仕事、または専門性やこだわりや視覚処理能力を活かせる仕事です。ご紹介したもの以外にも、同様の特徴がある仕事であれば、ASDの人に向いてる可能性が高いでしょう。

ただし上記職種は一例であり、他の職種であっても、具体的な「その会社」や「その職場」によって、向き不向きは変わってくると思います(次章の「向いていない仕事」も同じです)。

実際の仕事探しにあたっては、上記の職種も参考にしつつ、後述する「支援者」を頼りながら、各職場の特徴を確認しながら行うようにしましょう。

※特に「ASDと向いてる仕事」の話は、下記コラムで詳細に書いています。よければご覧ください。

ASDに向いていない仕事

ASDに向いていない仕事

反対に、ASDの人には難易度が高いことがある仕事として以下のようなものが考えられます。

難易度の高い仕事の例
  • 営業職
  • 窓口業務
  • 接客業

上記に共通するのは、対人コミュニケーションが重視されるという点です。

ASDの人には、社会性の障害やコミュニケーションの障害があるため、柔軟な対応が求められる接客系の仕事にいきなり従事するのはハードルが高いと考えられます。

ただし、「一次対応が完全にマニュアル化されていて、それ以外の対応になったら別の担当者に引き継ぐ」といったことが徹底されている場合や、「ソーシャル・スキル・トレーニング」などを介して対人折衝能力を充分に身に着けた場合などは、上記の仕事でも大きなトラブルなくこなせる可能性があります。

以上、向いている仕事、向いていない仕事を紹介しました。

ただし先述のとおり、上記はあくまでも一例です。ASDの症状の程度や、同時にお持ちのスキルセット、そして実際の職場の特徴などによって適性は多少変わってきます(ASDの人が接客業でトップパフォーマーとして活躍する事例も多いです)。

そのため、仕事の向き不向きはあくまでも参考に留めるようにしてください。

ASDの人ができる仕事術5選

この章では、どんな業務にも役立つ、ASDの人ができる仕事術5選を紹介します。

ASDの人が働く上では困難が伴うこともありますが、特性による弱みを上手にカバーした上で「こだわり」などを活かすことができれば、十分な活躍が期待できます。

なお、これから紹介する仕事術の中には、ASDの人であれば誰でも応用可能なものもあれば、特性によってはあまり効果が見られないものもあります。

大切なのは、特性を理解した上で適切な仕事術を身につけていくことです。

ASDでお悩みであれば、専門の支援機関と協力して特性をよく把握してから、下記の仕事術を実践してみてください。(参考:太田晴久『職場の発達障害 自閉スペクトラム症編』)

仕事術①具体的な計画や指示を仰ぐ

仕事術①具体的な計画や指示を仰ぐ

仕事をするときに、なるべく「具体的な計画や指示を仰ぐ」ようにしましょう。

職場では、「適宜」「よしなに」といった自由裁量を含む言葉がたびたび用いられますが、このような曖昧表現は混乱や齟齬の原因となることがあります。

「この資料を何部印刷して、何時何分に何階のB会議室に持ってきてください」というような、一見すると具体的すぎるくらいの指示の方が安心できる場合もあります。

ASDの人は仕事をスムーズに進めるためだけなく、ストレスを抱え込まないためにも、具体的な計画や指示を仰ぐように意識してみてください。

仕事術②文字や図を用いた説明を求める:視覚的構造化

2番目の仕事術は、「文字や図を用いた説明を求める」というものです。

これを専門用語で「視覚的構造化」と言います。

構造化とは、物事に秩序を持たせるために、その秩序をわかりやすくしてくれるような枠組みを設定することです。

ASDの人は、音声・会話といった「聴覚」でのコミュニケーションよりも、写真、図、絵、文字などを通じた「視覚」でのコミュニケーションの方が得意ということが多いです。

これは逆に言うと、「音声・会話でのコミュニケーションの方が苦手」という傾向になります(ただしこれは比較の話であり、「文字・文章でのコミュニケーションが絶対的に得意」というものではありません)。

そうした人の場合、口頭での指示よりも、工程表やスケジュール表などのチャートの形に落とし込んだ方が理解しやすいのです。

当てはまる人は、できるかぎり「文字や図を用いた説明を求める」あるいは「自分で作ってみる」ことをお勧めします。

仕事術③休憩時間をアラーム設定する

仕事術③休憩時間をアラーム設定する

仕事術の3点目は、「休憩時間をアラーム設定する」です。

ASDの人の弱みに「自分の体調や状態を把握しづらい」という特徴があったことを覚えているでしょうか?

仕事の現場でこの弱みが出ると、疲れているにもかかわらず休憩もせずにぶっ続けで作業をして、倒れこむといった事態になりかねません。

それを防ぐために有効なのが、この「休憩時間をアラーム設定する」です。

アラームが鳴ったら何分だけ休憩する、というルールを明確に決めた上で、仕事に応用するとよいでしょう。

「過集中」と呼ばれる、仕事に脇目もふらずに没頭することができる特徴を持つ人もいますが、それを毎日長時間続けると簡単に疲弊し、仕事を続けることが難しくなってしまうこともあります。気力や体力を消耗しきらないよう、自分自身をマネジメントしていきましょう。

仕事術④ノイズキャンセル機能のあるイヤホンを使う

ASDの人の中でも聴覚系の感覚過敏がある人にすすめたいのが、「ノイズキャンセル機能のあるイヤホンを使う」という仕事術です。

テクノロジーの発展によって、いまでは外界のノイズをかなりの程度まで抑え込めるイヤホンが出回るようになりました。

静かな環境でないとストレスが溜まったり集中できないというASDの人は、こういった道具に頼るのもひとつの手です。

ただし、あなたの障害を知らない人には「職場で人の話も聞かずに音楽を聴いている」と誤解される可能性もあります。

よって、周囲に自分の特性を理解してもらった上でイヤホンを使う、といった工夫が必要になります。

仕事術⑤支援者と定期面談を行う

仕事術⑤支援者と定期面談を行う

最後におすすめしたい仕事術が、「支援者と定期面談を行う」です。

ASDの人は、その日の体調だけでなく、長いスパンでの調子の波や自分のペースといったものを把握するのが苦手です。

そこで、専門的な知識を持っている支援者と定期面談を行うことで、自分のいまの状態に気付いたり、今後気をつけなければならないことを確認できるようになります。

また、自分では気付かなかった体調が崩れる前のサインや癖などを知るきっかけにもなりますので、仕事をうまく進めたいと考えている人はぜひ支援者に相談をしてみてください。

支援者とは、例えば「就労移行支援事業所」などのことです。就労移行支援については、下記コラムに詳しく記しています。ぜひご一読ください。

私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、うつ病や発達障害などの人のための就労移行支援事業所です。

  • 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
  • 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
  • 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月

新宿・横浜・大阪に校舎があり、通える範囲にお住まいであれば、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。

ASDの人の就労上の4つの注意点

ASDの人の就労上の4つの注意点

仕事術に続いて、この項目ではASDの人が就労する上で注意しておきたい点を4つにまとめました。

ASDの人の就労で大切なことをまとめると、「無理はしないこと」と「専門機関を利用して自分のことを知ること」になります。

現職で役立つ注意点だけでなく、これから就職や転職を考えている人には特に大切になってくるポイントも挙げていますので、ぜひご参照ください。

注意点①雇用枠を再検討する

注意点①雇用枠を再検討する

ASDの人は、雇用枠が自分にあったものかどうかをよく検討するようにしましょう。

雇用枠には、一般枠(クローズ就労)と障害者枠(オープン就労)の2種類があり、ASDに限らず、発達障害のある人が長く働き続ける上では重要な分かれ目になります。

それぞれの意味、メリットとデメリットを紹介しますので、後述する支援機関などに相談しながら検討してみてください。

■一般枠(クローズ就労)のメリット・デメリット

一般枠とは、いわゆる「通常の求人・採用」のことです。

障害があることを非開示にして応募・就労することから、「クローズ就労」とも呼ばれています。

メリットは、主に次の3つです。

一般枠のメリット
  • 業種や職種の選択肢が増える
  • 求人数が多い
  • 給与水準が比較的高い

問題は、以下に挙げるデメリット(注意点)の方です。

一般枠のデメリット
  • 業務内容や勤務形態への配慮が受けづらい
  • 障害を隠さねばならないという不安がある

特に障害自体を隠さねばならないことから生じる精神不安が大きいと言われています。

クローズ就労の詳細は下記コラムをご覧ください。

■障害者枠(オープン就労)のメリット・デメリット

障害者枠とは、その名のとおり障害のある人専用の求人・採用枠のことです。

障害を開示して仕事をすることから「オープン就労」とも呼ばれています。

こちらも、主に3つのメリットがあります(デメリット・注意点)ともに、一般枠・クローズ就労の裏返しです)。

障害者枠のメリット
  • 仕事内容や勤務形態への配慮を受けられる
  • 通院や服薬を優先できる
  • 支援機関と就職先による支援を受けられる

特に最初にあげた仕事内容や勤務形態への配慮を受けられる点が強みですね。

一方、デメリット(注意点)には以下のものがあります。

障害者枠のデメリット
  • 就職先の選択肢が少ない
  • 給与水準が比較的低い

あくまでも一般枠との比較になりますが、職種の選択や給与の点では難があるということは確かです。

なお、障害者枠を受けるためには障害者手帳の取得が必要になってきます。

オープン就労の詳細は、下記コラムをご覧ください。

障害者枠の詳細は、下記コラムをご覧ください。

注意点②バイト(非正規雇用)から始めることがよい場合もある

注意点の2点目は、「場合によってはバイトから始める」というものです。

あなたは、「フルタイムでの正規雇用で働かないと、働いているとは言えない」などと考えていませんか?

ですが、ASDなどの発達障害がある人がいきなりフルタイムで働きはじめると、心身が持たず継続できない可能性があります。

将来的に正規雇用を目指すかどうかは別として、「現時点ではアルバイト・パート勤務などの非正規雇用から始める」ことで、徐々に働くことに慣れていくというのもひとつの手です。

場合によっては「バイト勤務から始める」という選択肢も持つようにしましょう。

働くことに慣れることができますし、また、「その職場」や「その業種」のあなたにとっての向き不向きなどを、正規雇用よりも気軽に確認できます。

また、業種にもよりますが、バイトから正規雇用への転換も珍しい話ではありませんので、気になる場合は「その職場」に確認するようにしましょう。

注意点③医療機関を頼る

注意点③医療機関を頼る

3つ目の注意点は、「医療機関を頼る」です。

自分の意見や感情に固執し、第三者や専門機関に頼るのを拒絶する方もいらっしゃいます。

しかし、医療機関に頼らないまま、就職に限らない諸々の悩みをひとりで抱え込んでいると、どこかで仕事(など)に行き詰まる可能性が高まります。

様々な事例に触れて治療を実践してきた医療機関であれば、あなたの力になれることがあるはずです。

注意点④就労支援機関を利用する

先ほども述べましたが、就労を進める上で「就労支援機関を利用する」ことは重要です。

就労支援機関では、ASDの障害特性を生かした仕事の進め方や、就職活動の方法をアドバイスしてくれます。

法律に基づいて設置されている就労移行支援事業所など、最低0円からサービスを受けられて、就職後の職場定着までフォローを行う機関もあります。

就労移行支援事業所は手厚い支援(職業訓練、インターンの斡旋、職場定着に向けたフォローなど)を実施していますので、まずは興味を持った事業所に無料相談をしてみるとよいでしょう。

詳細は、下記コラムにまとめてあります。よろしければあわせてご参照ください。

改めて、ASDとは?

この章では、ASDについて改めて解説します。既にご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

①ASDの概要

ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。

ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  1. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
  2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式

他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。

なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。

②ASDという名称・分類について

ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が前掲の『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』を定めてからです。

それよりも昔には、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。

かつての分類では、「言語発達に遅れのある場合を自閉症」、「知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群」と区分して判断する傾向がありました。

一方、ASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。

なお、現在も「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、アスペルガー症候群などの旧名称・分類が残っていることもあります。

③ASDによる具体的な困難について

ASDの特性は、具体的には次のような形・傾向で現れることがあります(例であり、「ASDの人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)。

  • 人と目線が合いにくい
  • 場の状況や上下関係に無頓着である
  • 名前を呼ばれても反応しない
  • 一方的に言葉をまくしたてる
  • 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
  • 他人の発言をそのまま繰り返す
  • 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
  • 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
  • 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
  • 比喩や冗談を理解しづらい
  • 表情から気持ちを察しづらい
  • 自分だけのルールにこだわる
  • 決まった順序や道順にこだわる
  • 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)

④ASDの診断は医師だけが可能

「自分が(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。

逆に言うと、医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。

あなたが(ある人が)「発達障害かどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。

「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットや注意点は何か」などを相談することができます。

⑤ASDの医学的な診断基準

下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(精神障害の診察基準などを記した書籍)に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものです。

次のような診断基準に当てはまればASDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)。

A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
  1. 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
  2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
  3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
  1. 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
  2. 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
  3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)

⑥いわゆる「大人のASD」とは

「大人のASD」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「大人のASD」とは、医学的な定義がある言葉ではありません。次のような状態を指す俗語です。

  1. 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
  2. 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態

1に関連して、発達障害は生まれつきのものであり、「大人になって(大人になるにつれて)発達障害になった」ということではありません。その上で、大人になって受けた検査でASDであることが初めて判明したというケースは少なくないようです。

⑦ASDの「グレーゾーン」とは?

ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ASDの)グレーゾーン」と言います

グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。

ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。

確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。

⑧ASD以外の発達障害

発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。

ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。

ASDとADHDの主な違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。

ASDの場合

他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。運動が苦手なことも多いです。

ADHDの場合

ASDの人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。

ASD・ADHD・SLDの複数が併存する人もいます。気になる人は、下記の参考記事をご覧ください。

まとめ:ASDの特性を理解すれば無理なく働きつづけられます

まとめ〜ASDの特性を理解すれば無理なく働きつづけられます〜

ASDの特性から仕事の適性、工夫までを徹底解説してきましたが、あなたが働く上で活かせそうな情報があったでしょうか?

発達障害を抱えていたとしても、特性を理解してあなたに合った仕事をすることができれば、無理なく働きつづけることは可能です。

周囲の支援者を頼りながら、あなたが安心して働ける環境を見つけてください。

このコラムが、ASDで悩んでいる人の助けになったなら幸いです。

よくある質問(1)

ASDの特性は、仕事で活かせるんでしょうか。

一般論としては、次の特性は強みになりえます。「文字情報の処理に優れる」「特定領域の記憶力に長けている」「関心分野に高い集中力を発揮できる」「規則に従順で規範意識が強い」「論理的な思考が得意」。詳細はこちらをご覧ください

よくある質問(2)

ASDの特性に関連する「仕事が続かない」の解決策を知りたいです。

例として、「具体的な計画や指示を仰ぐ」「文字や図を用いた説明を求める」「休憩時間をアラーム設定する」「ノイズキャンセル機能のあるイヤホンを使う」「支援者と定期面談を行う」が考えられます。詳細はこちらをご覧ください。

監修志村哲祥

しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。 臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。

【著書など(一部)】
子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数

日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」

監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。

【著書ピックアップ】
ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』

Amazon
翔泳社公式 【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)

【その他著書など(一部)】
学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』

日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧

【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

監修角南百合子

すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい

執筆寺田淳平

てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。

サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)

うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→

相談予約 LINE相談 相談フォーム 無料資料請求 電話相談
LINEで
相談
フォームで
相談
資料
DL
相談
予約