自閉症(ASD)の人が就職を成功させるためのコツ7選 向いている仕事やアピールしやすい強みを解説 | キズキビジネスカレッジ  

自閉症(ASD)の人が就職を成功させるためのコツ7選 向いている仕事やアピールしやすい強みを解説

こんにちは、就労移行支援事業所・キズキビジネスカレッジの寺田淳平です。

高機能自閉症(現:ASD)のあるあなたは、新卒・転職を問わず、なかなか就職が決まらずに、悩んではいませんか?

高機能自閉症(現:ASD)の人の中には、その特性ゆえに就職活動で苦労されるケースが少なくありません。

しかし、様々な支援も受けながら、自身の特性を理解した上で就職活動を進めれば、あなたに合ったお勤め先を見つけられる可能性が高まります。

この記事では、高機能自閉症(現:ASD)の人が、就職を成功させるためのコツを紹介します。

就職活動の場面で抱えやすい悩み、アピールしやすい強み、支援機関、高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていると考えられる仕事などもあわせて解説しますので、ぜひご一読ください。

  • かつて「高機能自閉症」とされていた名称や内容は、医学的には「ASD」に改まっています。ただし現在でも「(高機能)自閉症」という言葉が使われる場面は多いです(日常会話や法令など)。それらを受けて、この記事では、内容的には「現行のASD」のものを紹介しつつ、表記としては「高機能自閉症(現:ASD)」といたします。(参考:厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

高機能自閉症(現:ASD)の人が就職を成功させるためのコツ7選

ここからは、高機能自閉症(現:ASD)の人が就職を成功させるためのコツを、具体的に紹介します。

前提として大切なのは、就職活動中に生じる悩みを、一人で抱え込まないことです。

第三者や支援者に相談することで、あなたの特性や現状に適したアドバイスが得られます。

専門家の意見を取り入れることで視野が広がり、就職活動を効果的に進めることができるはずです。

ぜひ、周囲の人の意見に耳を傾けることを意識しながら、以下のコツを実践していってください。(参考:對馬陽一郎『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』)

コツ①(二次障害がある場合)治療を進める

コツ①(二次障害がある場合)治療を進める

高機能自閉症(現:ASD)に関連した二次障害がある場合は、まず「治療を進める」ことに専念しましょう。

二次障害とは、発達障害に伴って起こる精神疾患などの病気のことをいいます。

発達障害の人は社会性・コミュニケーションに困難が生じやすいため、学校へ通う思春期前後に集団生活に馴染むことができず、いじめ被害を受けやすいです。

その結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病を患い、それが就職活動にまで影響している可能性が高いと言われています。

二次障害には主に以下のようなものがあります。

  • 適応障害:明らかなストレス要因を機に情緒不安定や抑うつ、身体症状が続く
  • 不安:漠然とした不安が続く全般性不安障害、対人場面で緊張が出る社交不安障害
  • 強迫性障害:不快感を伴う考えや行動をやめられない強迫観念や強迫行為が続く
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD):ショックな出来事の後で恐怖や無力感が持続し、体験の想起や記憶がとつぜん思いだされる「フラッシュバック」が起こる

就職活動をはじめるときには、専門医の診断を受けて、まずは二次障害がないかを確認し、必要に応じて治療を進めるようにしましょう。

コツ②専門の支援機関を利用する

国や民間公民を問わず、高機能自閉症(現:ASD)の人の就職支援を行っている機関は、多数あります。

具体的には、以下のような支援機関が挙げられます。

発達障害者支援センターとは

発達障害のある人が安定した生活が営めるよう、総合的な支援を目的として設置されている支援センターです。就職だけでなく、生活面や教育など、発達障害に特化した相談を受け付けているのが特徴です。

就労移行支援事業所とは

病気・障害のある人に対して、定期面談や専門スキルの講習などの就労支援を行っています。とりわけ就職を考えている人には、効果的かつ包括的な支援を実施していますので、就労移行支援については、次の項目で詳しく解説します。

障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターとは

発達障害を含む障害のある人に、専門的な職業サポートを実施しています。

上記の支援機関は、障害者手帳を取得していなくても、通常は無料で利用可能です。

基本的にはお住いの市区町村役場が窓口になっておりますので、どの支援機関が適切かわからないと言う場合は、役場の総合窓口に相談してみてください。(参考: 国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害者支援センター・一覧|相談窓口の情報」、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「地域障害者職業センター」、厚生労働省 ※PDF「障害者就業・生活支援センター」)

コツ③就労移行支援事業所に通う

コツ③就労移行支援事業所に通う

特に就職をお考えの高機能自閉症(現:ASD)の人にオススメしたいのが、「就労移行支援事業所」です(私たちキズキビジネスカレッジもその一つです)。

就労移行支援事業所では、一般企業への就職を目指す、発達障害や疾患のある人に向けて、就労支援を実施しています。

主な支援内容は以下の5つで、高機能自閉症(現:ASD)の特性及び利用者個人の特性に合わせて、就職に関する全般的なサポートを受けることができます。

  1. 生活習慣改善のサポート
  2. メンタル面のケア
  3. 就職に関連するスキルの講習
  4. 実際の就職活動の支援
  5. 職場定着支援(事業所による)

1の生活習慣改善、2のメンタル面のケアは、各事業所が行う「改善プログラム」や日常的な相談を通じて行われます。

3の就職に関連するスキルの講習は、事業所によって個性が現れるところです。

基礎的なスキル(ワード・エクセル・軽作業など)を重視しているところ、より高度なスキル(会計・ビジネス英語・ウェブマーケティングなど)を重視しているところなど、内容や方向性が様々に異なります。

4の実際の就職活動の支援には、あなたに向いた仕事・働き方・就職先探し、模擬面接、雇用枠の検討、インターン先探しなどがあります。

5の職場定着支援は、就職後のサポートです(行っていない事業所もあります)。

就労定着支援では、一般的な定期面談の他に、必要に応じて就職先も交えて、業務内容や業務量の調整といった、職場で長く働き続けるためのサポートが受けられます。

これまで仕事が続かないことに悩んできた人には、特にオススメです。

2017年に行われた障害者職業総合センターの調査によると、定着支援を受けた発達障害者の1年後の職場定着率が80.0%に対し、受けなかった人たちの職場定着率は61.6%と、20%近い差が出ています。(出典元: 障害者職業総合支援センター ※PDF「障害者の就業状況等に関する調査研究」)

相談・見学は無料ですので、支援内容に興味を抱いた事業所があれば、問い合わせや見学を行うことをオススメします。

就労移行支援事業所については、下記コラムをご覧ください。

私たちキズキビジネスカレッジ(KBC)は、うつ病や発達障害などの人のための就労移行支援事業所です。

  • 病気や障害があっても、KBCでは初任給は38万円も
  • 通常52%の就職率が、KBCでは約83%
  • 通常約1年半かかる就職内定が、KBCでは平均4ヶ月

新宿・横浜・大阪に校舎があり、通える範囲にお住まいであれば、障害者手帳がなくても自治体の審査を経て利用することができます。詳しくは下記のボタンからお気軽にお問い合わせください。

コツ④自分の特性を理解する

高機能自閉症(現:ASD)に限らず、発達障害の人は、特性による向き・不向きや、得意・不得意が顕著に現れる傾向にあります。

中でも、「できないこと」については、そもそも発達障害が脳の機能の偏りから生じていることもあり、カバーできる部分もしきれない面もあります(カバーできる部分については後述します)。

そのため、まずはあなた自身が、特性に対する自己理解を深めることが大切です。

自己理解が深まれば、面接の場などで、あなたの特性をより詳しく知ってもらうための説明ができます。

また、「何ができて・何ができないか」という特性理解は、実際に就職して働くときに、業務内容や業務量について職場の人と相談したり、自分を理解してもらったりする際の前提となるものです。

それゆえ、まずは自分の特性を理解した上で、もう一歩先に進みたい人は、それをうまく説明できるようにしておくとよいでしょう。

具体的には、「紙に書きだしてリスト化して記憶する」「専門機関の支援員などに文章を見てもらいながら修正を重ねて、テンプレート化する」などが有効です。

ご自身の特性を考える際には、あなたが普段感じていることの他に、「周囲の人から言われたこと」もヒントになることが多いです。

そして、「専門家」の観点も参考になります。

ですので、ご家族やご友人、先に挙げた「専門の支援機関」などを積極的に頼るようにしましょう。

コツ⑤雇用枠をじっくり検討する

コツ⑤雇用枠をじっくり検討する

5つ目のコツは「雇用枠をじっくり検討する」です。

求人・雇用の中には、「障害者枠」というものがあります。

障害者枠とは、文字どおり、「障害者を対象とする求人・雇用枠」のことです。

障害者枠ではない求人・雇用のことは「一般枠」と言います。

障害者枠では、発達障害の特性や程度に応じて、業務内容や業務量への配慮を得ながら働くことができます(ただし、通常は障害者手帳の取得が必須です)。

一方で、障害者枠は、一般枠に比べると、給与水準や昇進などのキャリア面において、満足のいく待遇を得られない可能性があります。

ご自身の特性や程度、経済状況、生活と仕事の優先順位などを総合的に考えて判断することが大切です。

前項の特性理解と同様に、雇用枠についても、専門家と一緒にじっくり検討を進めるようにしましょう。

障害者枠の詳細は、下記コラムをご覧ください。

コツ⑥特性をカバーする習慣を身につける

「特性をカバーする習慣を身につける」というのも、就職を成功させるコツです。

例えば、仕事で曖昧な指示を受けて混乱することがないように、日頃から「具体的な指示を得るために質問をする習慣」を身につけるとよいでしょう。

また、高機能自閉症(現:ASD)の人は、自分の関心分野などには高い集中力を発揮できる分、何時間もぶっ続けで作業をする「過集中」という状態に陥りやすいと言われています。

こうした特性と「自分の体調や疲労に気づきにくい」という傾向が相まって、倒れ込むほど作業に没頭することも少なくありません。

それゆえ「アラームで時間管理をして休憩時間をつくる」という習慣も、高機能自閉症(現:ASD)の人には効果的です。

上記のような習慣を身につけることは、実際の仕事で役立つだけでなく、就職活動でも「特性を補うために努力をしている」というアピールポイントにできますのでオススメです。

コツ⑦アルバイトから始めてみる

コツ⑦アルバイトから始めてみる

正規雇用を考えているけれど、就職先がなかなか決まらない…という人は、「アルバイトなどの非正規雇用から始めてみる」のも一つの手段です。

「絶対に、すぐに正規雇用で働く」と気負わずに、まずはアルバイトからスタートすることで、働くこと自体に徐々に慣れていくことができます。

また、アルバイトで興味のある業界・職種・働き方を試すうちに、あなたの向き・不向きもわかっていきます。

あなたに合った業種・働き方がわかれば、その分野での正規雇用を求めて、ステップアップすることも可能です。

お勤め先によっては、長く働くうちに、正規雇用への打診があるかもしれません。

また、アルバイトであれば、失敗しても、「不向きがわかった」とポジティブに捉えやすいかと思いますので、就職先が見つからないという高機能自閉症(現:ASD)の人は、ぜひ検討してみてください。

そして、アルバイトと並行的に支援者を頼ることで、あなたに向いた「就職先」はより見つかりやすくなります。

高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていると考えられる仕事

高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていると考えられる仕事

高機能自閉症(現:ASD)の人に向いている仕事を考える上で大切なのは、以下の2点に着目することです。

  • 静かな環境で、ひとりで仕事ができるか
  • 規則やマニュアルに沿って進められるか

上記の観点から、「高機能自閉症(現:ASD)の人に向いているかもしれない職業」には、以下のものがあります。

  • プログラミングなどのIT系
  • 経理
  • 事務
  • 法務

このような手順ややるべきことが明確な職業であれば、臨機応変な対応が求められたりトラブルが生じたりしない限り、高機能自閉症(現:ASD)でお悩みの人でも働きやすいかと思われます。

ただし、裁量の範囲があまりにも広く、曖昧な指示が多い場合は、混乱を起こす可能性もありますので注意してください。

また、高機能自閉症(現:ASD)と一口に言っても、その症状や程度は人によって異なります。

したがって、上述した職業に就いていても、職場や担当業務によっては多少の向き・不向きがあると思います(次章の「高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていないと考えられる仕事」も同様です)。

これから就職活動をされるなら、上記の職業を参考にしつつ、これまでに述べた支援機関の専門家と一緒に、お勤め先の特徴や業務内容を吟味しましょう。

高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていないと考えられる仕事

高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていないと考えられる仕事

反対に、高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていない職業には、以下のものが挙げられます。

  • 営業職
  • 窓口業務
  • 接客業

この3つには、「対人スキルが求められる」「予想外の出来事が多い」という共通点があります。

これまで述べてきたように、高機能自閉症(現:ASD)の人は、社会性やコミュニケーションに困難があるため、「対人折衝が必要になる接客系の職業は難しい」と考えられます。

ただし、「一次対応が完全にマニュアル化されていて、それ以外の対応になったら別の担当者に引き継ぐ」体制が徹底されているのであれば、上記の職業も問題なくこなせる場合があります。

したがって、上記の業務に従事する場合は、オペレーションが定型的かつ単純であることが条件と言えるでしょう。

さて、ここまで向いている職業と向いていない職業を解説してきましたが、先述のとおり、上記はあくまでも一例です。

高機能自閉症(現:ASD)の程度や職場の特徴次第で、「その仕事にマッチするかどうか」は多少変わってきます。

上述の職業は参考に留めて、実際の就職活動では専門家の意見を取り入れつつ、職場ごとに判断するようにしてください。

高機能自閉症(現:ASD)の人が就職活動で抱えやすい悩み4選

高機能自閉症(現:ASD)の人が就職活動で抱えやすい悩みには、どのようなものがあるのでしょうか?

この章では、よく聞かれる悩みを、4つ紹介します。(参考:梅永雄二『大人のアスペルガーがわかる』)

悩み①履歴書でアピールできる強みを書けない

①履歴書でアピールできる強みを書けない

就職活動の際には、エントリーシートや履歴書の中で、アピールポイントを書くよう求められることが少なくありません。

こうした要求には、言外に、「エントリー先の職場で活かせそうな点をアピールするように」という意味が込められています。

しかし、高機能自閉症(現:ASD)の人は、そうした言外の意味や要求の真意を読み取り、適切に答えるというのが苦手です。

それゆえ、「履歴書の中でアピールできる強みを書けない」と悩むことが多いようです。

こうした悩みの対策としては、自分の強みを書きだしたものを支援者に確認してもらい、あらかじめ定型的な問答集を作成するという工夫が効果的です。

悩み②面接でコミュニケーションがうまく取れない

2つ目は「面接でコミュニケーションがうまく取れない」という悩みです。

これは、高機能自閉症(現:ASD)の「コミュニケーションにおける困難」から生じる悩みになります。

よくある事例に、面接の冒頭で「会場までどうやって来ましたか」という質問を受けたとき、どこから話しはじめていいかがわからなくなるというケースがあります。

面接担当者がこのような質問をする狙いとして、簡単な質問からはじめて緊張を解きほぐす「アイスブレイク」の意味合いが強く、詳細な回答を求めていない場合が多いものです。

したがって、回答例としては、「JR○○駅で■■線に乗り、そのまま◆◆駅で降りて、そこから徒歩で参りました」のような、簡単な答えで大丈夫です。

しかし、高機能自閉症(現:ASD)の人は、「朝の何時に起きて支度をして、○時に家を出て、徒歩○分のバス停に行き、○番のバスに乗って…」ということを延々と話してしまいがちです。

このような悩みの対策には、「最初の回答は5〜10秒程度で行う」などのルールや条件を明確に定めるという方法があります。

悩み③自分に合いそうな職業が見つからない

③自分に合いそうな職業が見つからない

就職活動中に「自分に合いそうな職業が見つからない」という高機能自閉症(現:ASD)の人も多いです。

仕事をする上では、職場での人間関係を良好に保つ意味でも、ある程度のコミュニケーション能力が求められます。

そうした対人スキルが必要とされない職業も存在しますが、種類が限られるため、求人数も少なくなりがちです。

それゆえ、コミュニケーションに困難を抱える高機能自閉症(現:ASD)の人は、就職活動中に、「自分に合いそうな職業が見つからない」「そもそも向いている職業なんて無いのではないか」という悩みを抱えやすいのです。

※高機能自閉症(現:ASD)の人に向いている可能性のある職業については、後の章「高機能自閉症(現:ASD)の人に向いていると考えられる仕事」で解説します。

悩み④どこに相談をしていいかわからない

最後は「どこに相談していいかわからない」という悩みです。

高機能自閉症(現:ASD)の人は、定期的に病院やクリニックに通院していることもあるでしょう。

しかし、特性に伴う悩みならともかく「就職活動の悩みは医師に話す事柄ではない」と考えていることが少なくないようです。

コミュニケーションが苦手なことから、困り事を抱えていても、「どこにどう相談していいかわからない」と、やむなく単独で就職活動に取り組んでしまうケースもあります。

このような場合は、後述するように、まずは高機能自閉症(現:ASD)に理解のある専門機関を訪ねるのがよいでしょう。

高機能自閉症(現:ASD)の人が就職活動でアピールしやすい強み4選

この章では、就職活動時の参考になるように、高機能自閉症(現:ASD)の人がアピールしやすい「強み」を紹介します。

ただし、ここで挙げる強みは一般論であり、高機能自閉症(現:ASD)のある全員に当てはまるとは限らず、特性や性格によって個人差はあります。

お伝えする内容は「高機能自閉症(現:ASD)でも強みはある・強みを述べることはできる」という安心材料にしていただいた上で、実際の「あなた」の具体的な強みについては、後述する支援機関などを頼って見つけていくことをオススメします。(参考:木津谷岳『これからの発達障害者「雇用」』、本田秀夫『自閉症スペクトラム』、厚生労働省「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」)

①高機能自閉症(現:ASD)の人の4つの強み

①高機能自閉症(現:ASD)の人の4つの強み

高機能自閉症(現:ASD)の人が就職時に強みにできることとして、以下の4つが考えられます。

  1. 特定領域の記憶力に長けている
  2. 関心分野に高い集中力を発揮できる
  3. 規則や手順に精密に従うことが得意
  4. 論理的な思考が得意

記憶力や集中力の高さについては、その人の関心のある分野によって変わるため、どの分野に興味を持っているのかを見極めることが大切です。

特性としてしばしば見られる「ルールへのこだわり」は、規則や手順への準拠や、規範意識の高さにもつながります。特に製造業での組立作業や、あるいは法人でのコンプライアンス部門など、手順や規定、法令の遵守が大切になってくる仕事では強みになります。経理業務で特性を活かしている人もいます。

論理的思考が得意という強みは、どんな仕事にも応用が利く特性です。しかし、あまり突き詰めすぎると、会話中に対話者を追い詰めることもありうるため、注意が必要でしょう。

補足:コミュニケーションの傾向について

ASDの人には、音声・会話といった「聴覚」でのコミュニケーションよりも、文字・文章といった「視覚」でのコミュニケーションの方が得意という傾向があります。

逆に言うと、「音声・会話でのコミュニケーションの方が苦手」という傾向があります。

ただしこれは比較の話であり、「文字・文章でのコミュニケーションが絶対的に得意」というものではありません。

②高機能自閉症(現:ASD)の人が強みを活かせる例

高機能自閉症(現:ASD)の強みが活きるのは、自分の「こだわり」が仕事と関連するときだと言われています。

例えば、法令といった公的なルールに強い「こだわり」を持つ人が法務部門に就職すると、他人の意見に惑わされず、堅実に職務を全うできる可能性があります。

また、言葉や文字への「こだわり」と視覚情報を得意とする特徴があわさった高機能自閉症(現:ASD)の人は、出版社に就職して、文章のチェックや校閲に従事したところ、指摘や確認が性格で重宝されたという事例もあります。

「こだわり」の強さをポジティブに捉えることが、就職活動でのアピールや、就職後の活躍に繋がる可能性があります。

改めて、高機能自閉症(現:ASD)とは?

この章では、高機能自閉症(現:ASD)について改めて解説します。既にご存知かもしれませんが、これまでに紹介した内容の理解も深まると思いますので、ご覧ください。(参考:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』、宮尾益知『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』、姫野桂『発達障害グレーゾーン』、厚生労働省「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

①ASDの概要

ASDとは、「自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)」を意味する発達障害の1種です。

ASDには多くの特性がありますが、その中でも下記の2点がよく見られるものとして挙げられます。

  1. 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥
  2. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式

他に、感覚過敏(光や音や刺激への敏感さが目立つ)、発達性協調運動障害(不器用さが目立つ)などの特性がある人もいます。

なお、「スペクトラム」というのは、特性に様々なグラデーションがある、という意味です。一口に「ASD」と言っても、その特性の現れ方はひとりひとり異なります。

②ASDという名称・分類について

ASDという名称・分類が使用されはじめたのは、2013年に、アメリカ精神医学会が前掲の『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』を定めてからです。

それよりも昔には、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などという名称・分類であり、診断基準も現在とは異なっていました。

かつての分類では、「言語発達に遅れのある場合を自閉症」、「知能が定型の人と同等で言語発達の遅れがないケースをアスペルガー症候群」と区分して判断する傾向がありました。

一方、ASDという分類では、厳密な区分ではなく、「地続きの障害(=スペクトラム)」としてとらえようとしています。

なお、現在も「正式な医学用語」以外の場面(日常会話や法令名など)では、アスペルガー症候群などの旧名称・分類が残っていることもあります。

③ASDによる具体的な困難について

ASDの特性は、具体的には次のような形・傾向で現れることがあります(例であり、「ASDの人には必ずこのような傾向がある」「このような傾向があれば必ずASDである」というものではありません)。

  • 人と目線が合いにくい
  • 場の状況や上下関係に無頓着である
  • 名前を呼ばれても反応しない
  • 一方的に言葉をまくしたてる
  • 会話による意思疎通がうまくできず、コミュニケーションの齟齬が生じやすい
  • 他人の発言をそのまま繰り返す
  • 相手の身振りの意味、意見・気持ちなどを察しづらい
  • 自分の考えと別の可能性を想定しづらい(相手の立場に立って考えることが苦手)
  • 質問の意図や発言の狙いを理解しづらい
  • 比喩や冗談を理解しづらい
  • 表情から気持ちを察しづらい
  • 自分だけのルールにこだわる
  • 決まった順序や道順にこだわる
  • 予定が急変するとパニックになる(パターン化した行動をする方が落ちついた生活を送ることができる)

④ASDの診断は医師だけが可能

「自分が(ある人が)ASDかどうか」の診断は、医師による問診や心理士が実施する心理検査を中心に行われます。

逆に言うと、医師以外には「ASDかどうか」の診断・判断はできません。

あなたが(ある人が)「ASDかどうか」をハッキリさせたいのであれば病院を受診してみることをオススメします。

「診断を受けるのが不安」と思う人は、発達障害者のサポートを行う団体(各都道府県にある発達障害者支援センターなど)に「病院に行くべきかどうか」「診断をつけるメリットや注意点は何か」などを相談することができます。

⑤ASDの医学的な診断基準

下記は、2013年にアメリカ精神医学会がまとめた『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(精神障害の診察基準などを記した書籍)に挙げられているASDの診断基準を抜粋・一部編集したものです。

次のような診断基準に当てはまればASDの可能性があります(あくまで可能性です。「どの程度なら『当てはまる』と言えるか、他の病気や障害の可能性はないかなども含めて、「ある人がASDかどうか」は、医師だけが判断できます)。

A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥がある
  1. 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやり取りのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ
  2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、アイコンタクトと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ
  3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ
B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上ある
  1. 情動的または反復的な身体の運動、ものの使用、または会(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同行動、反響言語、独特な言い回し)
  2. 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
  3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)

⑥いわゆる「大人のASD」とは

「大人のASD」という言葉を聞くことがあるかもしれません。「大人のASD」とは、医学的な定義がある言葉ではありません。次のような状態を指す俗語です。

  1. 学童期には目立った特性や困難が見られなかった、またはその診断等を受けることはなかったものの、成人してから仕事の場などでその特性が顕在化し、ASDの診断を受けることになった例
  2. 子どもの頃からASDの診断を受けていた人が大人になった状態

1に関連して、発達障害は生まれつきのものであり、「大人になって(大人になるにつれて)発達障害になった」ということではありません。その上で、大人になって受けた検査でASDであることが初めて判明したというケースは少なくないようです。

⑦ASDの「グレーゾーン」とは?

ASDの傾向が確認されるものの、確定診断が下りるほどではないほどの状態・人のことを俗に「(ASDの)グレーゾーン」と言います

グレーゾーンの場合、確定診断がないことから利用できる公的なサービスが限定されることがあります(例:障害者手帳を取得できないため障害者手帳が必須なサービスを利用できない)。

ただし、グレーゾーンの人でも「発達障害者支援センター」のようなサポート団体への相談は可能です。

確定診断があってもなくても、またASDに関係してもしなくても「発達障害に関する悩み事」は専門的な知識を持つ人たちに相談した人が対策や解決策を見つけやすくなるでしょう。

⑧ASD以外の発達障害

発達障害はその特徴によって、いくつかのグループに分けられています。

ASD以外の主な発達障害には、ADHD(注意欠如・多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。

ASDとADHDの主な違いは、対人関係でのコミュニケーション能力の差にあらわれます。

ASDの場合

他人の身振りの意味などを察することや、状況の推測・暗黙の了解を理解しにくいことが多いです。運動が苦手なことも多いです。

ADHDの場合

ASDの人と比べると、コミュニケーションに大きな齟齬が生じたり、会話のやり取りや身振りの意味の理解に不自由さが生じたりするということは少ないです。
一方で、書類の記入間違いや物忘れといったミスが多いです。

ASD・ADHD・SLDの複数が併存する人もいます。気になる人は、下記の参考記事をご覧ください。

まとめ:就職活動を有利に進めるためには、「周囲の助けを借りる」ようにしましょう

就職活動を有利に進めるためには、「周囲の助けを借りる」ようにしましょう

今回は、高機能自閉症(現:ASD)の人の就職活動の悩みから、面接などでアピールできそうな強み、就職活動のコツなどを解説しました。

就職活動を開始するにあたって、覚えておいていただきたいのは、悩みを一人で抱え込まないということです。

できるだけ、ご家族やご友人、かかりつけ医に悩みを相談するようにしましょう。

また、高機能自閉症(現:ASD)の特性に理解のある、専門機関の支援員も頼ってみてください。

あなたの特性や状況に即したアドバイスがもらえるはずです。

周囲の助けを上手に借りることが、就職活動を有利に進める一番のコツだということを、忘れないようにしましょう。

よくある質問(1)

高機能自閉症(現:ASD)の自分が就職活動でアピールしやすい強みを知りたいです。

一般論として、次の5点が挙げられます(個人差はもちろんあります)。(1)文字情報の処理に優れる、(2)特定領域の記憶力に長けている、(3)関心分野に高い集中力を発揮できる、(4)規則に従順で規範意識が強い(5)論理的な思考が得意。詳細はこちらをご覧ください。

よくある質問(2)

高機能自閉症(現:ASD)の自分に向いている仕事を知りたいです。

一般論として、次のような職種が向いている可能性があります(個人差や職場による差はもちろんあります)。(1)プログラミングなどのIT系、(2)経理、(3)事務、(4)法務。詳細はこちらをご覧ください。

監修志村哲祥

しむら・あきよし。
医師・医学博士・精神保健指定医・認定産業医。東京医科大学精神医学分野睡眠健康研究ユニットリーダー 兼任准教授、株式会社こどもみらいR&D統括。 臨床医として精神科疾患や睡眠障害の治療を行い、また、多くの企業の産業医を務める。大学では睡眠・精神・公衆衛生の研究を行っており、概日リズムと生産性、生活習慣と睡眠、職域や学校での睡眠指導による生産性の改善等の研究の第一人者。

【著書など(一部)】
子どもの睡眠ガイドブック(朝倉書店)』『プライマリ・ケア医のための睡眠障害-スクリーニングと治療・連携(南山堂)』
他、学術論文多数

日経新聞の執筆・インタビュー記事一覧
時事メディカルインタビュー「在宅で心身ストレス軽減~働き方を見直す契機に」

監修キズキ代表 安田祐輔

発達障害(ASD/ADHD)当事者。特性に関連して、大学新卒時の職場環境に馴染めず、うつ病になり退職、引きこもり生活へ。
その後、不登校などの方のための学習塾「キズキ共育塾」を設立。また、「かつての自分と同じように苦しんでいる人たちの助けになりたい」という思いから、発達障害やうつ病などの方々のための「キズキビジネスカレッジ」を開校。一人ひとりの「適職発見」や「ビジネスキャリア構築」のサポートを行う。

【著書ピックアップ】
ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(2021年12月、翔泳社)』

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翔泳社公式 【略歴】
2011年 キズキ共育塾開塾(2023年7月現在10校)
2015年 株式会社キズキ設立
2019年 キズキビジネスカレッジ開校(2022年7月現在4校)

【その他著書など(一部)】
学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法(KADOKAWA)』『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本(翔泳社)』『暗闇でも走る(講談社)』

日経新聞インタビュー『働けたのは4カ月 発達障害の僕がやり直せた理由』
現代ビジネス執筆記事一覧

【メディア出演(一部)】
2022年 NHK総合「日曜討論」(テーマ:「子ども・若者の声 社会や政治にどう届ける?」/野田聖子こども政策担当大臣などとともに)

監修角南百合子

すなみ・ゆりこ。
臨床心理士/公認心理師/株式会社こどもみらい

執筆寺田淳平

てらだ・じゅんぺい。
高校2年の春から半年ほど不登校を経験。保健室登校をしながら卒業し、慶應義塾大学に入学。同大学卒業後の就職先(3,500人規模)で人事業務に従事する中、うつ病を発症し約10か月休職。寛解・職場復帰後、勤務を2年継続したのち現職のフリーライターに。
2019年に一般財団法人職業技能振興会の認定資格「企業中間管理職ケアストレスカウンセラー」を取得。

サイト運営キズキビジネスカレッジ(KBC)

うつ・発達障害などの方のための、就労移行支援事業所。就労継続をゴールに、あなたに本当に合っているスキルと仕事を一緒に探し、ビジネスキャリアを築く就労移行支援サービスを提供します。トップページはこちら→

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